涙の涸れる日

社会人

 私は父の経営する不動産会社に、社長である父の第二秘書として就職した。

 就職活動もしないで秘書検定すら持っていないのに申し訳なく思いながら仕事をしている。

 第一秘書の鈴村さんが非常に優秀且つ経験豊富な男性秘書で、私の仕事なんて無いに等しい。

 取引先に書類を届けたり、年に何度かあるイベントのコンパニオンの様な仕事をしている。

 ただイベントに英語圏のお客様がいらした時は通訳として働いた。

「だから紗耶に秘書をさせたかった」
と父に言われた。

 会社の役に立つのは嬉しいし、仕事が楽しいと感じられるのは自分でも意外で驚いている。


 就職してニか月が経って、大学の仲良しグループで飲み会をしようという事になった。
 幹事は樹里。皆の都合を聞いて五月の最終金曜日に決まった。場所は大学時代もよく通った居酒屋。


 定時で仕事を終わらせて店に行くと樹里が待っていた。

「久しぶり〜紗耶〜。元気だった〜?」
樹里はやっぱり元気だ。

「元気だよ。樹里も元気そうで良かった」

「私から元気を取ったら何が残るのよ?」
顔を見合わせて笑った。このやり取りも久しぶりだ。

「里香と桜子は?」
まだ姿が見えない。

「二人共、少し遅れるって言ってた」

「そうだよね。高校教師と芸能界だもんね」

「大変そうだよ。二人共」

「そういえば煌亮は?」

「それがね。急に出張が入ったって。ロスだよ。ロスアンゼルス」

「そっか商社だよね。会いたかったな」

「煌亮もそう言ってた。先に始めてようよ」

「そうだね。」

 樹里が予約してくれた個室に入った。


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