余りもの王女は獣人の国で溺愛される
第五章

 城下へのお忍び視察の後も、私のギャレリアでの生活はこの国の歴史や成り立ち、文化や礼儀作法に費やされていたが、気合も入ったおかげで講師の方々に続々と合格をいただくことができた。
 その合間にも結婚式の準備が着々と進み、さまざまな合格を貰った三日後には式本番を控えていた。
 今日は出来上がったドレスの試着の日だ。
 朝からやる気満々の二コラとリエナに、さんざん磨かれてからの試着だ。
 式本番と同様に髪をしっかり結い上げてベールも被って、ドレス全体の仕上がりを確認する。
 
 そこにやってきたのはリーリヤ王妃様だった。

「まぁ、なんて綺麗なんでしょう。こんな素敵な花嫁さんを迎えるなんて、ルトったら今からソワソワしているのよ」

 王妃様はとっても楽しそうにお話ししてくれて、私は無意識のうちに緊張していたものが解けていくのを感じた。


 ギャレリア王国の王族は大変仲が良く、お互いを愛称で呼んでいる。
 リーリヤ様はリーデンベルグ陛下をベルと呼び、陛下は王妃様をリーヤと呼んでいる。
 皇女様のレーリン様はリンと呼ばれているし、リヒャルト様はルトと呼ばれているのだ。

 そんなギャレリア王国で私はリカと呼ばれるようになった。
 マジェリカ、そのままだと長いものね。
 私も呼ばれることに慣れてきて、最近はリカのほうが呼ばれたとき反応がいいかもしれない。

「マジェリカ様、こちらのティアラとネックレスで最後になります」

 本番の衣装に装飾品を宛がわれて、すっかり用意の整った私は鏡の自分に首をかしげてしまった。
 私の動きにつられて、鏡の中の私も動く。

 それにつられて、ドレスがふわりと揺れる。
 ギャレリア風のドレスはエンパイア型で、きれいに重ねられたシルクとシフォンが軽やかに自分の動きについてくる。

 ベールは長く、顔と髪を隠してくれる。
 ベールの縁につけられたレースは、繊細な花と蔦に鳥が舞っている模様に竜もいる。

 この形とレース飾りがギャレリアの花嫁のベールの伝統なのだという。
 マテリカのドレスはふんわりと膨らませるものが多いので、新鮮だし動きやすさに感動する。



 


 
< 35 / 55 >

この作品をシェア

pagetop