「お前のような出来損ないなど、我が家の人間ではない!」

 まさか、自分の父からそんな言葉を投げつけられる日が来るとは思ってもいなかった。

「――かたくなぁれ」

 薄暗い部屋の中に、小さな女の子の声が響く。
 ごろん、と床に横になり、リーゼロッテはため息をついた。

(私、これからどうなるんだろう……)

 手にしたパンは、リーゼロッテの全体重をかけてもつぶれないほどに硬くなっていた。リーゼロッテにできるのは、手にしたものを硬くすることだけ。

(お父様は、私のことを愛してくれていると思っていたのに……)

 ついさきほどまで、リーゼロッテの前には輝かしい未来が開けていたはずだった。
 将来絶世の美女になることが約束された愛らしい容姿。国内最高位の貴族の家に生まれた娘。
 将来、国の役に立つであろう有用なスキルを授かると思っていたのに、与えられたのは、こうやってパンを硬くすることくらいしかできない外れスキル。
 汚らわしいものを見るかのように自分を見ていた父の顔を思い出し、リーゼロッテは絶望にうちのめされた。

(ううん、まだ望みを捨てちゃダメ)

 もしかしたら。
 ひょっとしたら。
 そんなありえない希望にすがりついて、リーゼロッテは再びパンを手に取る。

「……かたくなぁれ」

 小さな声を聞いている者は、誰もいなかった。