祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
エルラド
 目的地まで、馬で三日を要した。シルフィスは街道沿いの旅館に馬を預け、徒歩で町に入る。
 エルラドは、地方の都市、だった。
 町のつくりは大きくも小さくもない──が、地方にしては大きい方だと言えるだろう。家や街路の佇まいも、なかなかお洒落だ。
 とりあえず、シルフィスは広場のある大通りをぶらぶらしてみた。どこの町でも広場には商店と飲食の場があり、人が集まる。『噂話』という名前の情報も、そこで囁かれて広がるものだ。
 歩いてみると、エラルドの雰囲気は王都とはかなり違った。
 町の人は、まず、みなのんびりと歩いている。王都のように急いでいない。軒を連ねる商店はそれなりに賑わっているが、強引な客引きにはいっぺんも会わない。古い田舎町でときに感じるような閉塞感もなかった。すれ違う人々のまとう空気には、風が通り抜けるような解放感がある。
 ひとことで言って、暢気な町、のようだ。
 が、休憩を兼ねて昼食をとった食堂で、隣テーブルの客の会話が耳に入り、シルフィスは少し考えを改めた。
「……あの虎騒ぎには参ったね」
「ちょっと見てみたかったな。滅多にないぞ、サーカスの虎が逃げ出すなんて」
 へえ、そんな物騒な事件があったのか、とシルフィスはスープをすする。居合わせなくてよかった。
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