祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
「ごめんなさい」
 ナーザはもう一度謝罪を口にする。悪戯を叱られた子どものような顔で。
「お客さんにさっき聞かれたことにちゃんと答えてなかったのを思い出して、店に引き返して来たんだ。そしたら、お客さんが店を出てそっちへ歩いてて……後ろ姿が、何か、タダものじゃない感じして……。お客さん、ホントに吟遊詩人?」
 まっすぐ向けられた視線を受け止め、シルフィスは、ゆっくりとひと呼吸した。
「世の中、安全な道ばかりじゃないんだよ。親切を装う悪い人もいる。多少の護身術は、ひとり旅には必要なんだ」
「そりゃ、そうか」
 ナーザはうつむき、くしゃくしゃと金色の髪をかきまぜた。
「それと、さっきの質問の答えは、ミストレスに教えてもらったよ」
 いつから雷撃の力を身につけたのか、という問い。
 シルフィスの言葉に、髪をまぜる少年の手が止まる。
 ……答えは、前世を思い出したとき。
「ミストレスと約束した。呪いを解く方法をどこかで聞いたら、君に知らせるって」
 しばらく黙ったあと、ナーザは、ありがとう、と呟く。顔を上げたときは、にしし、の笑顔だった。
「じゃ、お礼に俺も教えるよ。そっち、行き止まりだから」
 伸ばした指は、シルフィスが進もうとしていた方角を指している。
 ええっ? とシルフィスはナーザの指の先を見る。確かに迷路のような路地裏だが、最初の角から道を間違えていたのか?
「あの、すまないが、表通りには……」
 言いかけると、ナーザはくるりとシルフィスに背を向けた。
「表通りに出るなら、こっちだよ。一緒に行こう、お客さん」
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