祈りの空に 〜風の貴公子と黒白の魔法書
 手綱を引いて馬を止める。ナーザもそれに倣った。
「シルフィス?」
「囲まれた」
 囁くと、ナーザは左右を見回した。すっと目を細める。状況がわかったらしい。
 十人はいる、とシルフィスは気配を読む。厄介だな。
「綺麗な兄ちゃんとガキか」
 前方の暗闇から声がした。次は、後ろから。
「売り飛ばせば金になるぜ。こういうのが好きな旦那もいるからよ」
 姿は見せない。獲物の恐怖心を煽るにはいい方法だ。
 無駄だろうな、と思いながらシルフィスは声を上げてみる。
「急いでいるんだ。金なら渡すから、通してくれないかな」
 下卑た笑い声が起こった。前後左右から、ガサ、ガササ、と大きく木の枝や草を揺らし、一目で山賊と分かる男たちが現れる。
 シルフィスは目と耳でそれを十二、と数えた。
「大人しくしてれば、痛い目見ずに済むかもよ?」
 正面の男が、肩に大きな剣をのせて数歩近づく。彼の後ろには弓に矢をつがえた男がふたり。
 シルフィスは後方を確認する。抜き身の剣を手にした男がふたり、斧がひとり。……飛び道具は前のふたりだけか。
 外套の下で右手を、竪琴へと伸ばす。
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