猫かぶりなカップル
お弁当はかなり手を抜いた。



どうせ見るのが神城しかいないなら一生懸命作ってきてもどうしようもない。



屋上でお弁当を食べながら、神城に昨日デートに行ったかどうか聞かれた話をする。



今日は風が強いから他の人にはあたし達の会話は聞かれないはずだ。



「…それで?」



あたしの話を聞いた神城は、明らかに警戒した顔。



…はい、あなたの予想は当たってます。



「だから、あたしと一度デートしましょうっていう話よ」

「なんで昼飯付き合ってやった上にそんな面倒くさいことまでしてやんないといけねえんだよ」

「あたしだってあんたみたいな上から目線男とデートしたいわけじゃないんだけど」

「おい。今すぐお前の秘密バラしてやってもいいんだぞ」



マズイ!



あたしの秘密を握ってる男に対して好き勝手言い過ぎた!



あたしはコロッと態度を変え、両手を合わせた。



「お願いします、神城様! あたしとデートしてください…。証拠作りに協力して…!」



手をすりあわせて必死にお願いした。



他の人なら上目遣いと思いっ切りの愛嬌でころっと落とせるのに、この男にはそんな小手先通じないからな…。



とりあえず精一杯お願いするしか…。



神城はそんなあたしを冷ややかな目で見てから、はあとため息をついた。



「仕方ねえな…。ったく、なんで俺がこんなボランティアみてえなこと…」

「ほんとに助かる! ありがと~!!」



良かった…。



あたしの人権がこれでまた一つ守られた。



神城には感謝してもし足りないかも…。



ムカつくけど…。



「その代わり、その卵焼き俺のな」



神城があたしのお弁当の卵焼きを指した。



いつもは時間をかけてふわっふわにしてるけど、手を抜いて短時間で簡単に巻いた卵焼き。



「犬は飼い主の言うことに忠実だろ?」

「飼い主なら犬のご飯食べないでよ…」



言いながら神城のコンビニのお弁当の蓋に卵焼きを置いてあげる。



ムカつきはするけど感謝はしてるからね…。



「やっぱ手作りの卵焼き美味いわ~」



ほんとムカつく……。
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