猫かぶりなカップル
「お前はもっと自分に自信を持っていい、お前はそのままで価値があるって言ってくれる奴が今まで現れなかっただけ。でも俺が分かってるから。お前は立派だよ」



どうしてそんなにあたしを肯定してくれるの?



この人はいつも、あたしを救ってくれる。



涙が止まらなくなっちゃうよ…。



「スッピンだし泣いた顔やばそうだし服も適当だし、こんなボロッボロの姿見せて最悪…」

「だからもう頑張らなくていいっつーの。そっちの方がお前の素が出て良い感じだぞ」

「んなわけないじゃん…」

「そっちの方が自然で可愛いって」



神城がそう言ってあたしの頭を、今度はぐしゃっと撫でた。



可愛いとか…。



そんなわけないのに…。



「ほら」



そう言って神城があたしに手を差し出す。



「病院連れていってやっから。歩けるか?」

「うん…」



神城の手を取って、ぎゅっと握った。



「引っ越してもまたこうやって助けてやるよ。優しいからな、俺は」

「…」

「おい、黙るなよ」



違うよ、優しすぎる神城に心の底から嬉しくなっちゃっただけだよ。



神城なら本当にどこでも来てくれそうだもん。



引っ越したとしても、変わらずそばにいてくれるんだね。



「名字は…変わる前に名前で呼んどく?」

「えっ…」

「つーかお前、俺のこと『あんた』としか言わねえし。犬のくせに」



いつもの調子の神城。



「ひどっ! もう犬じゃないもん…。それに、神城だって『お前』しか言わないじゃん」

「だから名前で呼び合うかって言ってんの」



名前で…。



「かな…で?」



言ってみたらなんかとてつもなく恥ずかしい。



ただ名前呼んだだけなのに!



「くるみ」



あたしに答えるようにして、あたしの名前を呼ぶ神城の声はやっぱり優しい。



名前を呼び捨てにされるの、ママ以外でどのくらいぶりだろう。



やば、顔赤いかも…。



なんか恥ずかしい!



だけど、不思議と心地よさも感じていて。



不思議な感覚にドギマギしながら、知らない夜道を、奏と手を繋いで歩いた。



*
後日。



ママは彼氏とあのあとすぐに別れたらしい。



結婚するなんて言うの初めてだったからびっくりしちゃったけど、付き合ったばかりで相手の嫌なところが目に入らなかったとかなんとか。



やっぱりママは勝手。



だけどあたし、どんなときでも味方してくれる人がいるってわかったから、大丈夫だ。
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