「そう怯えるなよ」

琴子を組み敷き、その滑らかな髪を撫でながら耳もとで囁いた。

琴子は小刻みに震え、涙を滲ませる。

「愛していない男に抱かれるのは嫌か?」

問いかけると、琴子は目を見開いた。

「いいえ……。どうしていいのかわからないだけです……。私は透哉さんの妻ですから、嫌ではありません」

「妻だから義務で俺に抱かれるのか?」

少し責めるような口調になった。

琴子は、『私たちは政略結婚なのだから、透哉さんこそ私を義務で抱くのでしょう?』というような顔をしている。

義務なわけがない。

十年前、琴子が琴子のお父上の仕事に同行していた頃から好きだった。

可憐な彼女にまるで運命のように一目惚れしたのだ。

だが彼女は俺を見てはくれなかった。

ずっと彼女を忘れられなかった俺は、自分の立場を利用し、政略結婚という名目で彼女を手に入れることにした。彼女が大学を卒業するのを待ち侘び、俺の妻にしたのだ。

それを彼女はなにも知らない。

俺たちは業務提携を前提とした愛のない結婚をしたのだと思い込んでいる。