あなたに巡り会えてよかった…
2時になり本屋の方が賑やかになってきた。

私は混雑がおさまってからいこうと思いまだ旅行記を読み進めていた。

今回は地元の人との仲良くなり穴場の食堂を教えてもらったと。ただ、穴場が故に水に当たりお腹を下したと書いてあった。

そうなんだよね…氷とか生モノに気をつけないとやっちゃうんだよね。
ウフフ、とつい笑ってしまう。
私も色々なところでやってるから分かる。
興味が出てつい屋台で食べたりするからお腹にくることがあるんだよね。
果物を食べるために洗ったら当たっちゃう、とかね。
 
身近なトピックスで顔が緩む。

そろそろ空いてきたかな〜と思いトレイを持ち立ち上がった。
食べたものを片付け、本屋の方へ向かった。

さっき見たよりも空いており数人が並んでいる程度。

私も最後尾に並んだ。

あと3番目、というところまで来て胸がドキドキしてきた…
あの人だ…
きちんとしたスーツを着ているがまだ少し浅黒く日焼けの名残が見える。
もしかしたら…じゃない。
あの時の彼だ。
喉の奥の方がキュッと締まる。
ドキドキが止まらない。

あと2番目。
彼は前の人と話しているので気が付いていないみたい。そもそも覚えていないかもしれない。
屈託のない笑顔で前の人の本にサインしている。

とうとう私の番になってしまった。
本を差し出す手が震える。

ふと彼が顔を上げた。

あ…

お互いに何も言えなかった。

彼は慌てて私の本にサインする。

今日はありがとうございました、と言い本を閉じ私に返してきた。

握手をして分かれた。

彼の手の温かさはあの時と同じだった。
あの笑顔も同じだった。

由紀の言ってた言葉が思い出された。

『運命だって思わないの?』

運命…
こんなことってあるのかな。
また会えるなんて思いもしなかった。
彼のことは名前も知らなかった。
成田で一緒に降りたこと以外なにも知らない。
今日もたまたまここに来た。
近くの本屋でなく、たまたまランチもしたいと思い立ってここに来た。私がこんなこと思うなんて滅多にない。たまたま…たまたま今日、ここに来たいと思っただけ。

でも彼はそう思わなかったのだろう。
握手して終わってしまった。

由紀…やっぱり運命とかってないんだよ。
現実はそんなことないんだよ。
あの人は話しかけもしてくれなかったよ。
目があったと思ったのは気のせいかな。
ただのお客さんだと思われたのかな。
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