岬邸は郊外にある立川邸と違い、都内の一等地にあった。

 岬邸はシンプルで無機質な造りの立川邸とは真反対の荘厳で華やかな外観だ。豪邸、という響きがピッタリだろう。

 二人が玄関前のロータリーに車を停めた頃には、既に数十台の車が止まっていた。

 岬の誕生日パーティーには芸能人や資産家など毎度多くの有名人が招待されるため、黒塗りの高級車も珍しくなかった。

「俺はこういうパーティーが苦手なんだよ」

 着いて早々、薫は嫌そうに愚痴をこぼした。

「またそんなこと言って。面倒くさいだけじゃないですか?」

「アイツの誕生日パーティーはいつもこうだ。派手で、ゴテゴテしてて、毎回人に挨拶するだけで終わる」

「誰だって色んな人に祝って欲しいものです」

「俺はいつもお前一人だけだ」

「じゃあ博士もパーティーしたらいいじゃないですか」

「パーティーなんて面倒くさい」

「プレゼント一杯届くじゃないですか」

「物なんていらない。下心が見え見えだ」

「岬さんだって来てくれたじゃないですか」

「……そうじゃない」 

「祝ってるのは私だけじゃないんですよ」

 薫の言いたいことはイヴには伝わらなかったようだ。薫は諦めて、エントランスへ向かった。

 一階のエントランスホールで受付を済ませ、本会場であるパーティールームに入ると、そこは既に人でいっぱいだった。

 一歩一歩進むごとに二人に刺さる視線の数が増す。それぐらい薫とイヴは有名だった。

「薫! 来てくれたのね!」

 薫が岬を見つける前に、岬自身が薫に駆け寄ってきた。

「今年もずいぶん盛大だな。ほら、プレゼント持って来たぞ」

 薫が小さな箱を渡すと、岬は嬉しそうに目を輝かせた。

「ありがとう。薫が選んでくれたの?」

「ま、一応な。ほとんどこいつの見立てだが。イヴ、花束」

「岬さん、誕生日おめでとうございます」

 イヴは鮮やかな赤い花でまとめられた花束を差し出した。岬は笑顔でそれを受け取り、腕に抱えた。

「……ええ、二人ともありがとう。今日は楽しんでいってね。薫、父に会っていく?」

「そうだな、久しぶりに話すか。イヴ、少しここで待ってろ」

 薫は岬と共にイヴを残し、バルコニー付近で談笑していた岬の父親に声を掛けた。

 岬の父親は農工業ロボットの実業家であり、研究者だった。
 
 こうして話すのは何ヶ月振りだろう。両親が親しかったこともあり、薫と岬の父親は親戚のように接していた。

 両親が亡くなってからは少し疎遠になっていたが、薫にとってはアンドロイドのことを教えてくれた師の一人でもある。

「やあ、薫君じゃないか。いろいろ風の噂で聞いているよ。研究もずいぶん進んでいるみたいでなによりだ」

「お久しぶりです。今日はお招き頂きありがとうございます」

「そうだ、今日君のアンドロイドはいないのかね?」

「ああ、向こうにいます」

 薫が指差した先──イヴはパーティーに来た男達と会話していた。それを見た薫の顔が僅かに陰る。

 こうなることは予測していたが、かといって薫の精神状態がそれに順応できるかどうかはまた別の話だ。

「相変わらずの美しさだな。量産すれば売れるだろうに」

「アイツは一体だけだから価値があるんですよ」

「お父さんもういいじゃないそんな話。今日は私の誕生日なんだから、研究の話は一切止めて」

 岬は腕を組んで拗ねたように眉を顰めた。

「分かった分かった。ところで、話は変わるが薫君。君もいい歳だろう。そろそろ落ち着いたらどうだね? なんならうちの優花でもどうだ?」

「もう、お父さんたら! やめてよそんなことっ」

「悪い話じゃないと思うがね」

 岬の父親は上機嫌で持っていたワイングラスを傾けた。顔が赤いから、酔っているのか本気なのか分からない。酒の席の冗談だろうと薫は思った。

 ふと、視界の隅にパステルイエローの何かがチラリと映って、薫は一瞬そちらに視線を向けた。だが、すぐに視線を戻し、苦笑して肩を竦めた。

「決めた人がいますから。というのは冗談で……当面は仕事が恋人です」

「ほう、本当か? あながち冗談にも聞こえんな。なにせ君はあっちこっちの美女からお声がかかっていると聞く。本当は本命がいるんじゃないのかね?」

「それはご想像にお任せしましょう」

「薫、そんな話聞いてないわよ? 好きな人がいたなんて、言ってくれれば相談に乗ったのに」

 薫は自嘲気味に笑ってさらりとかわした。

「さあな。できたら自分でなんとかする」

「私が知ってる人? 歳は? 背丈は? 美人なの?」

「まぁこんなところで話してたらマスコミが嗅ぎつけるだろう。いい人ができたらまた紹介してくれ」

 その後も薫は岬の父親と話したが、酔っていたのか話が長引き、なかなかイヴのところに帰れなかった。

 イヴは全く薫のことが気にならないのか相変わらず招待客と談笑していて、それが余計に薫を苛立たせた。