【完結】打算まみれの恋


 なら、ここにいる理由もないかと、お財布とスマホだけ持って席を立つ。

 通路に出て天井に吊られている指示通りトイレへ進めば、個室から二つほどあいた部屋に滝永さんの姿が見えた。親戚の人と何やら話をしていて、気弱そうな素振りもなく堂々と……それにくだけた会話をしているようだった。

「なあ、今日決めるんだろ? 何その汗。今からそんなんでどうすんの? 散々追いかけまわしてたんだろ?」

 どくりと、心臓が嫌な音を立てる。ここにいてはいけないことくらいはっきり分かっているのに、足が縫い付けられたように動かない。そのまま息を殺し中の様子を窺っていると滝永さんは項垂れた。

「これで実は彼氏いるとか言われたらキツすぎじゃない? 無理でしょ絶対無理だわ死ぬわマジで考えただけで気持ち悪くなってきたしもう無理だわ腹痛い。下半身すべてが痛い」
「片腹?」
「いや違うし愉快なほうじゃねえよバカ本当バカ。マジで今までどんな思いでお手紙交換やってきたと思ってんの?」
「確かにお前とは真逆の人格を演じてるよな。笑える。女とっかえひっかえして、最終的に顔さえ悪くなければ金払ってくる女と遊び倒してたお前がそんな頑張り見せてくると思わなかったわ。賭けで負けたからテレビ局紹介しないと」
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