とある企業の恋愛事情 -受付嬢と清掃員の場合-
第13話 君が運命の人なら
 ────アレって俺のことやんな。

 自宅に着くなり文也はベッドに倒れ込んだ。

 最終的にビールを三杯ほど飲んだのに全くといっていいほど酔えなかった。同じく杉野もビールを二杯、チューハイを一杯飲んでいたが、酔っているふうではなかった。

 二人で当たり障りない会話をして、特に何事もなく駅で解散した。

「何やってんねん俺は……」

 思わず自分に対しツッコミが炸裂する。告白するのに絶好の機会だったというのになぜ言えなかったのだろう。

 いや、居酒屋で告白なんて全然よくない。あんな場所で告白した日には杉野に恨まれてしまう。

 酔ってはいないがのぼせている。杉野の反応は決して悪いものではなかった。最初は頭に血が上ってつい勇足になってしまったが、その行動も無駄ではなかったようだ。

 だがいつからだろうか。杉野は自分のことを嫌っていると思っていた。なじられたのは一度や二度ではない。今までそれはもう散々な言われようだったのだ。全て身から出た錆だが。

 しかしいつも間にか自分のことを好きになってくれていたのだろうか。自覚はなかったが、今までの彼女の態度を振り返るとなんとなくそうだと思える部分がある。

 普段はハキハキ喋る杉野もあんなふうに照れるのだ。

「あかんって……あんなの反則やん。アイツ俺を殺す気か」

 だがベッドの上で悶絶している場合ではない。杉野との気まずい関係は解消されたが、何も進展していないのだから。

 現状、自分と杉野は付き合っていない。杉野の気持ちも確実にはっきりと証明できたわけでもない。

 杉野は適当なことを嫌う。きちんと告白しなければまた関係は悪化してしまうだろう。現状に満足してはいけないし、するつもりもない。多少ゴリ押しだが、それはいつものことだ。


< 67 / 158 >

この作品をシェア

pagetop