ジルは執務室でアンダーボスのシモンと話していた。話の内容はもちろん、予期せぬ訪問者メアのことだ。彼女の処遇は決めたが、簡単なことではなかった。

 執務室の扉がコンコン、と叩かれる。入ってきたのはビアンカだ。

「どうだった」

 シモンが尋ねると、ビアンカは苦い顔をした。

「明日、一緒に町へ出かける約束をしたの。でもやっぱり、マフィアのことは好きじゃないみたいね……」

「まあ、恋人を殺されたって言ってたからな」

「大丈夫だとは思うけど、もし何かあったら知らせるわ」

「お前も十分強いが一応レオンを後ろにつけておけ」

「うん……あの、ジル」

 ビアンカは黙って話を聞いていたジルに恐る恐る尋ねた。

「本当にメアの復讐に手を貸すつもり? あんな女の子にマフィアを討つなんて出来っこないわ」

 ジルは昨日襲われた時のことを思い出した。メアはどう見たって細腕で、最初自分に襲いかかって来た時も手元は危なっかしくナイフを持つ手も震えていた。刃物のような凶器なんて当然人に向けたことがなかったのだろう。

「だとしても、アイツ一人で放り出したらそれこそ返り討ちにされて殺されるのは目に見えてる。うちの縄張りで殺されても困るだろ」

「そうだけど……だからってあんな約束……」

「いいからお前はアイツの面倒見てやれ。女はお前しかいないんだ」

「言われなくたってそうするわ。また、報告するから」

 ビアンカが部屋から出て行って、ジルはふうっとため息をついた。それを見てシモンは心配そうに尋ねる。

「大丈夫か」

「別に、なんてことない些事だ」

「────そっくりだな」

 シモンの一言にジルは彼をジロリと睨んだ。だがすぐにその視線を戻し、ぼんやりと宙を見つめる。

「ここに置いてやるのはお前の親切心、か?」

「天下のディアブロ様はそんな優しくはない」

「じゃあなんだ。危険分子だとは思わねえのか」

「思わないな」

「アイツに似てるからか?」

 シモンが聞くや否や、ジルは素早いモーションで胸ポケットから銃を取り出してシモンに向けた。

「悪かった。そんなに怒るな」

 シモンにそう言われて、ジルはようやく銃を下ろした。

 もちろん本気ではなかった。これぐらいのことで仲間を撃つような真似はしない。シモンは昔からの友人であり、共にディアブロを立ち上げたメンバーだ。

「アイツはなんだか昔のお前みたいだな」

「……そうだな」

 ジルは数年前の自分を思い出した。今よりももう少し若かった頃の自分の姿だ。無鉄砲で、無知で、あまりにも無力だった。

 そしてそれに付随して過去の記憶に眠る面影が蘇る。記憶と現実の懐かしい姿を重ねながら、胸を焼け付くような悲しみが襲った。