メアはビアンカに少し親近感を覚えていた。

 だが、彼女がマフィアとして活動していることには納得できなかった。

 その合言葉にどんな意味が込められているのか、考えても分からなかった。

 ヴァレンチナの街を大雑把に案内してもらったメアは、必要そうなものだけ買ってアジトへと戻った。

 帰る頃にはすっかり辺りは暗くなっていて、ぽつぽつと白い街に街灯が灯り始めた。

 ビアンカはキッチンで荷物を降ろし、袋の中から買ってきた食材を取り出した。

「夕食を作るからちょっと待っててね」

「ビアンカが作ってるの……?」

「ええ、ここは私しか女がいなくて、他の人も出来ないことはないけど出来がいいとは言えないものだから」

 ビアンカは肩を竦めて苦笑した。

「そう……手伝えることがあったら、手伝うけど……」

「ううん、メアはお客さんだから」

「ビアンカさん、なんでその人がここにいるの?」

 突然扉の方で声がした。部屋の前にいたのはレオンだった。彼はキッと睨むようにメアを見て威嚇した。

「さっきメアに街を案内してたの。ちょうど今帰ったところよ」

「そうじゃなくって、なんでその人がここにいるの。部屋があるんだからそこに置けばいいでしょ」

「レオン、彼女は囚人じゃないのよ。それにボスからも許可は得てるわ。外を一人で出歩かせなければ基本的に彼女は自由よ」

 ビアンカがそう言うと、レオンは訝しげに眉を寄せた。レオンは十代にも二十代にも見えるが、若いことは確かだ。どこかあどけない表情をしている。

 ふん、と鼻を鳴らすとレオンは部屋から出ていった。メアを受け入れていないのだろう。彼は昨日からずっとあんな調子だった。

「ごめんなさい、レオンはちょっと人見知りなの。口は悪いけどいい子なのよ」

「彼も……マフィアには見えないわね」

「そうね……レオンは一番後から入ってきた子なんだけど、ボスに懐いて離れなくって。メアがボスを襲ったから警戒してるのよ。失礼なことをするかもしれないけど許してね」

「ディアブロには……いろんな人がいるのね」

「そうね……ちょっと事情がある人が多いわ。私も、レオンも……」

 ビアンカは言葉を濁して料理に取り掛かった。

 ほんの少しだが、メアもそれを手伝って、夕食の時間になると食堂には最初会った時部屋にいた幹部のメンバーが集まってきた。いないのは、ジルだけだ。

「お、今日はこいつも一緒なのか?」

 ルシアーノは調子よく言った。彼はメアに対してレオンのような感情は抱いていないようだ。

「ボスはどうしたの?」

「さあ、執務室にでもいるんじゃねえのか?」

「もう、いつも来ないんだから……」

「私、呼びに行ってくるわ」

 メアは自らジルを呼びにいく役を買って出た。

「言っとくが襲うなよ。ジルは銃の扱いにかけてはピカイチだからな」

「……そんなことしないわ」

「執務室は三階だ。赤い扉だからすぐに分かる」

 バタンと扉を閉めて、メアは執務室へ向かった。

 少しだけ、彼に話を聞きたいと思ったのだ。ジルのことはまだ信用したわけではないが、約束した以上簡単にそれを破るわけにもいかない。マフィアの手を借りるなど屈辱的だが、今はこれ以外方法がなかった。

 メアは三階まで行くと言われた通り赤い扉を見つけた。扉を開けたが、中には彼はいないようだった。

 おかしいな、と思って辺りをキョロキョロと見回していると物音がして、それは執務室の扉の奥の部屋から聞こえてくることに気が付いた。

 メアはゆっくりと扉をに近付き、開けた。だが、体が硬直した。ベッドの上には半裸の女が座っていて、その下にはジルがいた。

 嬌声を上げていた女はメアに気が付いたが、慌てるでもなく落ち着いて振舞った。

「旦那さん、誰か来たけど……あの子もどっかの店の子?」

「ああ……?」

 同じく上半身裸のジルがゆっくりと体を起こして目が合う。

 メアは居たたまれなくなって部屋から飛びだした。

「な……っ何よあれ……!」

 メアは滑りそうになりながらも早足で階段を駆け降りた。先ほど見た衝撃的な光景が頭から離れない。

 なぜジルはあんな姿だったのか、なぜ女が馬乗りになっていたのか。考えなくてもそれくらい分かるが、見慣れない刺激的な行為の最中を目撃してしまったことでパニックになっていた。

 ダイニングに戻ると、何も言わずにがたんと席についた。

「メア、ボスは?」

「し、知らないっ!」

 だからマフィアなんて大嫌いだ。汚くて、だらしなくて、乱暴で、下衆い。

 出された夕食は美味しかったが、そんなことも考えられないくらいメアはイラついていた。

 夕食の席に着いて少しして、ようやくジルが食堂に入ってきた。

 メアはすぐさま席を立ってご馳走様でした、と早口で言うと食器を片付けて部屋へと足早に戻った。

 あんなシーンをみられたあとでよくもまぁ人の前に姿を見せられたものだ。

 部屋に戻ったものの怒りが収まらず、枕をベッドに向けてぼすんと投げつけた。

 いくら部屋の中だからといって幹部がいる家の中でああいう行為をするのはどうなのだろう。ジルはボスだから誰も何も言わないかもしれないが、こちらの身にもなって欲しい。ノックもせずに入った自分も自分だが────。

 考えだすとまたあの光景を思い出してしまって、不愉快な気持ちは消えなかった。