電車に乗ってから、気まずくなった空気を変えようと彼女に大学のことを聞いてみた。彼女はいたって普通に話すので安心した。彼女の話を聞きながら、真面目な学生なのだということがよくわかった。


家庭は貧乏なのに大学を出させてもらっているからと言って、ご両親に学費の面で迷惑を掛けないように奨学金を借りながらバイトをしているそうだ。こんな遅い時間までバイトをしていてはご両親も心配するのではないかと思うが。


 会話が興に乗ってきたところで、電車は目的地についてしまった。

「西島さん」

 電車のホームに降り立つと、石原さんは私の名前を呼んだ。振り返ると彼女はなんだか神妙な面持ちでドアの前に立っていた。

「どうしました?」

 まるで思いつめているかのような様子だったので、一音も聞き漏らすまいと前のめりになった。そうこうしているうちに発車の合図のベルが鳴る。


「今度、晩酌ご一緒してもいいですか?」


 言うと同時にドアが閉まる。

ようやく開いた口から出てきた言葉には少々驚いてしまったが、すかさず「いいですよ」と答えた。


俺の声が彼女の耳に聞こえたかどうかはわからない。


ただ俺の耳には、電車がレールを走る音と、黄色い線の内側に入っていた俺に向かって注意する駅員の声だけが聞こえた。