どうにもこうにも~出会い編~
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 なんて冷たいことをしてしまったんだろう。最低だ。自己嫌悪に陥る。本当は彼女のことを抱きしめたくてたまらなかった。

 彼女はきっと、俺のことはかわいそうな中年としてしか見ていないと思っていた。ひとり居酒屋のカウンターに座ってひとり酒に興じる俺は、たしかに寂しい男だ。

しかしあそこに行く度に彼女の笑顔を見るだけで幾度となく心癒され、俺の心は満たされた。彼女はよく気が利くし元気もいい。あの弾けるような元気な笑顔がいいと、どの常連客も言っている。俺もその常連客のひとりだった。ただ遠くであの笑顔を眺めているだけでいいと思っていたのに、なんて欲深い男だ。彼女にとって、俺は大勢いる居酒屋客の中のひとりに過ぎないはずだったのに。そんなことは分かっていたのに。

 自分のエゴで彼女を傷つけてしまった。なんてかわいそうなことをしたのだろうと思う。彼女が俺を好きだという気持ちはきっと憧れに近いものだ。たまたま知り合った大人の男に憧れを抱いたに過ぎない。時間が経てば俺のことなど忘れるだろう。

 俺は彼女との連絡を絶った。

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