白鳥花純(しらとりかすみ)が『華丸商事』に入社したのはもう五年も前だそうだ。彼女は営業担当として入社し、先輩社員について仕事していた。

 彼女はどちらかと言えば落ち着いていて、静かで、あまり目立たないタイプだったらしい。一見、営業向きではない。
 しかし当時の面接官は、彼女の在学中の成績がよかったことや、はっきりした受け答え、自信に満ちた態度が気に入ったという。
 今となってはそんな話、誰も信じなかった。白鳥花純はどう見ても、営業向きではなかった。

 入社後、白鳥花純はそつなく仕事をこなしていたそうだ。先輩社員について必死に仕事を学びながら、社員達ともうまくやっていたし、そこには不審な点など見られなかったという。

 ところが、彼女が仕事を任されてから少し経ったある日、トラブルが起きた。取引先からクレームの電話が入り、危うく取引を中断するというところまで話が進んだのだそうだ。

 その取引先というのが華丸商事にとってはかなりのお得意様で、社長や専務は大激怒。白鳥花純は菓子折を持って社長達と謝りに行くことになった。 

 最終的に取引は継続することになったが、当然、会社から白鳥花純への態度は変わった。

 それまで彼女は営業だったが、事務局に移動になった。その騒動のせいで社員達のワンシーズンのボーナスが大幅にカットされたため、それまで仲の良かった社員達も彼女を嫌厭し、仕事の会話以外は全く喋らなくなった。

 しかし誰も彼女を憐むことはなかったという。彼女のせいで会社は多大な損害を受けた。大勢が迷惑した。クビにならなかったのは、彼女がしでかしたことがクビにする理由として不適当だったかららしい。取引先に失礼なことをした程度でクビにすることはできない。

 そういうわけで、今日も白鳥花純は目立たない席で一人静々と仕事している。