始業十分前、和紗はノートパソコンの電源を入れた。ぼんやりと起動画面と眺める間、白鳥の姿を思い出した。

 あれは本当に白鳥だったのだろうか。普段の彼女の服装は知らないが、事務員はみな落ち着いた色合いのトップスにカーディガン、パンツルックの者もいればスカートの者もいる。いずれにせよ地味な格好が多い。

 しかし、あの時見た彼女は派手そのものだった。創立記念パーティは多少華やかな格好をしている者もいたが、あそこまで短いスカートや体のラインが目立つ服を着たものはいない。

 彼女はパーティに参加せず、外で飲んでいたのだろうか。しかしそれは考えにくい。では、終わってから着替えたのだろうか。それが濃厚な線だが、だとしてもあの大人しそうな彼女があんな派手な格好をするなんて────。幻でも見たのだろうか。

 それに、あの男性は一体誰だったのろう。彼女も女だから彼氏ぐらいいても不思議ではないが、何もかもが普段の彼女と結びつかない。

「安城、朝礼だぞ」

 肩を叩かれて、和紗は慌てて立ち上がった。毎朝恒例の朝礼だ。

 しかし、全く集中することができなかった。この間から片桐といい、白鳥といい、女性は皆二十面相なのだろうか。だとしたら玉緒や六花もそうなのだろうか。退屈な話を聞いている間、しばらく頭の中は白鳥のことでいっぱいだった。

 結局話をほとんど聞かないまま朝礼が終わった。和紗はメールの確認を済ませると、ホワイトボードに予定を書き込んだ。今日は二件得意先のところに行って、また事務所に戻る。

 鞄を背負ってオフィスから出たところだった。廊下の先に六花の姿を見つけた。向こうも和紗の姿を見つけ、手を振って駆け寄ってきた。

「おっ、これから出かけるの?」

「ああ。ただの巡回みたいなものだけどね」

「そうそう。和紗に言おうと思ってたのよ」

 途端六花は小声になり、和紗に耳元に口を寄せた。

「なに?」

 和紗は思わず顔を退けた。

「白鳥さん、だったよね? この間言ってた人」

「ああ……」

 なんてタイムリーなんだ、と和紗は思った。

「実はね、あれから私も気になって噂に詳しそうな人に聞いてみたの。なんか、すっごいことやらかしたんだって?」

「ってことは、六花はその事件の詳細は聞いてないんだ?」

「そこまでは教えて貰えなかたの。まあ、人の悪口言うような人じゃないから、あえて言わなかっただけかもだけどね。でも、その人に言われたの。白鳥さんには近づかない方がいいって」

「近付かないほうがいいって……」

「ややこしい人なんじゃない? 浮いてる人みたいだし、和紗もあんまり関わんない方がいいよ」

 和紗は納得したが、心のどこかでまだ疑っていた。確かに六花のいう通り、白鳥は「ややこしい人物」なのかもしれない。会社に不利益をもたらした落ちこぼれ社員。しかし、あの時片桐にいじめられて落ち込んでいた彼女がかわいそうに思えたからか、なんとなく彼女を悪人だと決めつけることが出来なかった。