────アナタのご両親の秘密…………知りたくはない?

 紅は先日視聴覚室で起きた出来事が忘れられなかった。

 安穏とした日々を過ごしながらも、ずっと頭の隅から離れない出来事。

もしあの声の主が本当のことを知っているなら、これはチャンスだ。そしてピンチでもある。

 恐らくだが、声の相手は吸血鬼だろう。それぐらい想像がついた。

 取引は魅力的だが、応じれば命はないかもしれない。

 しかし、これ以上待っても両親のことを得る手がかりはやって来ないだろう。

 朔夜達が教えてくれなければ、もうそれを知る術はないのだから。



 紅は立ち上がり、視聴覚室へ向かった。

 取引の内容は聞かなかったが、恐らく血を渡すことに違いない。

 それならば、相手と交渉できるかもしれない。

 真紅の血族はもう他に生き残りがいないと聞いた。ならば自分の血がいかに重要か、相手も分かってるはずだ。

 そう簡単に手に入らない血をみすみす殺す可能性は低いはず────いや、そう交渉しなければならない。

 視聴覚室の扉は開いていた。

 意を決して中に入ると、無人の教壇が出迎える。

 誰もいないようだ。いや、吸血鬼ならばこの間のようにどこかに潜んでいるのかもしれない。

「……いるの?」

 音のない教室に、ミシッと床が軋む音が響いた。

 瞬間、背中に感じたことのない悪寒を感じ取った。姿は見えない。いや、振り向くことが出来なかった。

 確かにそこにいると、全身が危険信号を鳴らす。冷や汗のようなものが背中を伝い、紅はゴクリと生唾を飲み込んだ。

「あ……あなたが……この間の……」

「取引に応じてくれるということよね……?」

「目的は、私の血……?」

「ええ……」

 ねっとりとした艶やかな女性の声だ。

 振り向いて確かめよう。そう思って振り返ろうとした時、首筋にビリっとした鈍い痛みが走り、身体は前のめりに倒れていった。

 体が動かない。

 次第に薄れていく意識の中、女のクスクスと笑う声が聞こえた。