朔夜は月城家の屋敷に紅を連れて帰った。

 屋敷では、青白い顔をした小夜をはじめとした分家の者達が待っていた。
  
 朔夜が抱えたその物体を見て、小夜は悲鳴をあげた。

 一目散に駆け寄って紅の顔を覗き込むと、その表情は悲壮なものへと変わる。

 真っ赤に染まったシーツを見れば、紅がどういう状態にあるかなど聞かなくても分かったはずだ。

「……朔夜君……っ霧咲、さんは……」

「……生きてる。手当てをしてやってくれ」

「わ……分かったわ……」

 小夜は朔夜から紅の身体を受け取ると、ゆっくりとした足取りで部屋に連れて行った。

「……朔夜さん……彼女は……生きてるんですよね……?」

「……深い傷じゃない。安静にしてれば治る」

「そう、ですか……」

 疲れがどっと体に押し寄せたのか、朔夜は一気に体が重くなって自室に戻ってソファにもたれこんだ。

 観月達のことの顛末とエリザベートのことを話したが、あの薄気味悪い悪趣味な部屋のことまでは言わなかった。

 拷問狂のエリザベートのことを考えれば、紅の傷があれだけで済んだのは奇跡的だ。

 迎えに行ったのが早かったのもあるが、エリザベートはすぐに殺すと長く血が得られないと思ったのだろう。だからあんないたぶり方をしたのだ。
 
 今頃小夜は、部屋で真っ青になっているかもしれないが、あの身体を男に見せる気にはなれない。
  
 朔夜は休むつもりでいたが、紅のことを考えると眠りに身を委ねることが出来なかった。



 考えた結果、朔夜はしばらく分家の者達も月城家本家に滞在させ、紅の警護と屋敷の警護をさせることにした。

 これだけ紅の血の匂いがしていれば他の吸血鬼が寄ってこないとも限らない。また彼女を危険な目に遭わせたくなかった。

 二時間ほどして小夜は戻ってきたが、思った通り顔はげっそりとしていた。

「……手当てはしたから、もう大丈夫」

「……そうか」

「あんな……酷いことを……」

 小夜は目尻に涙を浮かべ表情を歪めた。無理もない。紅は酷い有様だったのだ。それを手当てしただけで精一杯だったのだろう。

 小夜は吸血鬼だが、血が好きなわけではない。エリザベートとは間反対の吸血鬼だった。

「もういい、お前は休め」

「いい……平気。それより……これからのことを話しましょう」

「あいつらに交代で屋敷を護衛させることになった。紅の護衛もしばらくは全員であたる。もう少し厳しくしないとなにが起こるか分からないからな」

「それがいいと思うけど……でも、大丈夫なのかしら……」

「なにがだ」

「あんな酷い仕打ちをされたのよ……? 錯乱してもおかしくないわ。警護は必要だと思うけど、彼女が目覚めてからの様子を見て決めた方がいいと思う……」

「……分かった」



 紅は次の日も眠ったままだった。

 朔夜と小夜、観月と菜月を残し、あとの分家は学校へ向かわせた。

 小夜は紅のそばに寄り添い彼女が目覚めるのを待ったが、相当疲れていたのか、それともショックが大きかったのか、紅はなかなか目覚めない。

 美しい顔は憔悴しきっていて普段よりも血色が悪く見えた。

 流した血の量はそれほど多くはなかった。ただエリザベートの趣味で血塗れにされただけだが、いずれにせよ紅は身体のあちこちに針を刺されたような痕があった。

 胸糞悪い傷跡は小夜が包帯で隠したおかげで見ずに済むが、朔夜は思い出すだけで腹が立った。

「朔夜君、その……エリザベートはどうなったの……?」

「殺す気で弾をぶち込んだが死んだかどうかは分からない」

「大丈夫なの? また襲われたりしたら────」

「心配するな。強い吸血鬼でも銀の弾には勝てない。急所に撃ってるからどっちにしろもう動けないはずだ」

「そう……それならいいけど……」

 厄介なのはそれよりもこちらだ。

 ベッドで眠る紅を見て、朔夜は目蓋を伏せた。