紅はしばらく怪我が治るまで屋敷で養生することになった。負わされた怪我は比較的軽傷だが、精神的な傷の方が大きかった。

 紅はベッドの中からぼんやりと窓の外を眺めた。そこからは澄んだ青い空が見えた。

 屋敷の中は静かそのもので、なんの音もしない。庭にある噴水の音が、少し届く程度だった。

 不意にノック音が聞こえて、扉の方に視線をやった。

 入ってきたのは小夜だ。食事を乗せたトレーを持っていた。今日も動けない紅のために食事を作ってくれたのだろう。

「霧咲さん、気分はどう?」

「今は……痛くありません」

「そう……でも完全に治るまでまだ時間がかかるから。学校に行くのはもう少し様子を見てからにしましょう」

「あの……エリカ────いえ、あの人は……」

「……エリザベートのことはもう心配いらないわ。もう動けるような状態じゃないし、エリカとしての彼女ももういない。安心して学校に通えるから心配しないでね」

「そうですか……」

 とはいえ、紅は複雑だった。親友として過ごしてきた人物が実は自分の血を狙っていた吸血鬼だったのだ。信頼していただけに、彼女の裏切りはショックだった。

 これからの生活の中にエリカがいないと聞いて安心する気持ちもあれば、寂しく思う気持ちもある。

「あの……朔夜さんは……」

「……ごめんなさい、ここ最近話していないの」

「えっ……?」

「少し出掛けているだけだと思うから心配しないで。そのうちひょっこり戻ってくると思うから」

「でも……」

「大丈夫。それより霧咲さんは怪我を治すことに専念して。ご飯も作ってきたから、ちゃんと食べてね」

 あの時、「目の前から消えて」なんて言ったから帰って来なくなってしまったのだろうか。

 あれ以外、朔夜とは顔を合わせていない。紅は失言を後悔していた。

 強いとはいえ彼も心を持っている。それなのにあんなことを言ってしまった。

 表面だけで聞いた話を鵜呑みにして、朔夜の言葉を聞こうとしなかった罰だ。