とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
社長秘書と公開プロポーズ
 俊介は幸せの絶頂真っ只中であった。

 今しがたついに、二年間待ち続けていた綾芽と再会し、プロポーズの返事をもらえたのだ。天にも舞い上がるような気持ちだったのだが────。

 現在絶賛、聖の執務室で説教をくらっている最中でもあった。

「まったく、どうして男って人前であれこれやりたがるの! はじめさんといい俊介といい、もうちょっと羞恥心ってものを持ってもらわないと……」

 ことの発端は言うまでもない。俊介が公衆の面前で一目も憚らずプロポーズしてしまったことだ。

 プロポーズは大成功だったが、聖には大説教をくらってしまった。

「聞いてるの、俊介!」

「……聞いてる」

「まったく、もう……」

「悪かった。まさか綾芽さんに会えると思ってなくて、つい……」

「そうね、機会は逃すなってうちの元海外事業部出身営業マン様も言ってるしね?」

「いや……」

 さりげに誰かを非難しているが、そこには突っ込まなかった。聖はふう、と溜息をついて仕方なさそうに笑った。

「もういいわ。別に私も怒ってるわけじゃない。やるなら知らせてよね。フラッシュモブでもなんでも用意したのに」

「いや、それは遠慮したい……」

「何言ってるのよ大勢の前でプロポーズしたくせに」

 しかし、それは俊介も意図していなかった。とにかくあの時は、綾芽を逃すまいと必死だったのだ。結果的に綾芽も告白しに来てくれたようだから、あそこまでする必要はないと分かったのだが────。

「おめでとう」

 聖はしかめっ面を解いて満面の笑みを浮かべた。

「いろいろ心配してたけど……もう心配いらないわね」

「ああ……今度こそ本当にな」

「あ! ちゃんと連絡先聞いて来たわよね!?」

「大丈夫だ。会う約束もしてる」

 聖は俊介の代わりに大きく安堵の息を漏らした。

「早退けしたいなら聞くけど?」

「いいよ。ちゃんと仕事して帰る。会社騒がせて迷惑かけたからな」

「別に私はいいわ。ただ、明日から俊介がちょっと有名人になるだけよ」

 俊介はそのことを考えるとゾッとした。会社のロビーを通るのが億劫になりそうだ。特に、受付嬢達にからかわれることは目に見えている。しばらくは車で通勤した方がいいかもしれない。
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