とある企業の恋愛事情 -ある社長秘書とコンビニ店員の場合-
第18話 とんでもなく真面目なあなただから
 セットしたアラームが鳴った。綾芽は薄目を開けてスマホの電源を何度か押した。時刻は六時だ。

 綾芽はようやくそのことに気付き、もう一度目を閉じた。習慣でついやっていたが、もうこの時刻にアラームをセットする必要はなくなった。

 泣きすぎてまぶたが重い。腫れているのだろう。

 あれから何日経っただろうか。コンビニのバイトをやめたせいで時間の感覚が狂っている。

 コンビニは辞めたが、もう片方の仕事は続けていた。それを辞めると本当に収入がゼロになるからそれだけは出来なかった。コンビニの分の収入はもう片方のバイトを増やせばなんとかなる。だから特に金銭的に困ることはない。

 ただ、突然辞めたことで萩原や店長、他のバイトに迷惑をかけたことは心苦しかった。だが仕方ない。あれ以上あそこで仕事を続けることは精神的に無理だった。

『ごめん、立花さん……。俺は────』

 青葉の言葉を思い出して、また腫れた瞳から涙がこぼれ落ちる。

 自分でも分かっている。重症だ。あれからずっと後悔し続けていた。気安く青葉のマンションに行ったことも、青葉を介抱したことも、青葉に身を任せてしまったことも、好きだなんて言ってしまったことも。

 ああいうアクシデントを一夜の過ちというのだろう。青葉にとってあれはまさに一夜の過ちだったに違いない。酒に酔っていただけなのだ。当然だ。今までだって、青葉は一度だって手を出さなかった。たまたまむしゃくしゃして酒を飲んで、そういう気分になっただけのことだったのだ。

 だが、そう思えば思うほど気分は暗く落ち込んだ。青葉と一緒にいることでついていたなけなしの自信も、どこかへ行ってしまった。

 夢のような出来事の中で聞いた言葉は嘘だったのだろうか。今でも信じられないのだ。青葉は確かに「好きだ」と言った。何度も抱きしめて、愛しそうに口付けてくれた。

 あれが夢だったのなら、一体なにを信じたらいいのだろう。

 コンビニを辞めて以来、青葉の連絡先は全て拒否してアドレス帳から消した。メッセージが何件か来ていたが、怖くて開けられなかった。もしそこに、忘れてくれ。なんて書かれていたら、本当に自分は壊れてしまいそうだ。

 青葉だってきっと、離れることを望んでいるだろう。仮にも社長秘書だ。スキャンダルなんて起こしたくないに違いない。

 腹立たしい気持ちがないわけではないが、それを凌駕する悲しみがあった。青葉をどうにかしたいという気持ちより、青葉にこれ以上拒絶される方が怖かった。
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