エリート外科医の不埒な純愛ラプソディ。
見慣れた職員専用の通用口を抜け、正面に病院の裏側に面した駐車場が現れたところで背後から声をかけられた。
「高梨ー!」
その声に振り返れば、軽く手を掲げてから、こちらへ駆け寄ってくる同期の加納の姿が見て取れる。
そんなに走らなくてもいいのに。
そう思いつつ立ち止まっている私のすぐ傍まで来ると、微かに息を弾ませた加納が私の顔を目にした途端、えらく驚いた様子で瞠目したまま、全ての動きを停止してしまっている。
おそらく、普段はノーメイク同然なので、彩仕様の七五三さながらのメイク顔の私に違和感しかないのだろう。
加納の様子に、なんとも言えない気恥ずかしさと、居心地の悪さを覚えた。
今一度、彩仕様の自分の姿を思い返してみる。
彩の解説によると。
睫毛はクルンとカールにマスカラでボリュームを出し、アイラインを引いて、パッチリ黒目がちの印象的な目元に。
煌めくパールが効いたアイシャドウと、頬に丸くのせたほんのりピンクのチークで、キュートに。
唇には、艷やかなシャイニーローズのグロスで瑞々しく、思わずキスしたくなるように。
真っ黒なストレートの髪に至っては、女性らしく柔らかな雰囲気を演出するためにといって、ご丁寧にもヘアアイロンでゆるふわパーマ風のアレンジまでなされている。
彩には悪いけど、こんなことになるなら、メイクを落としてくれば良かった。
なんだかいたたまれなくなってきて、気まずい雰囲気をなんとか払拭しようと。
わざとおどけた声を出し、笑いで誤魔化して、それとなく話題を変えようと思っていたのだが。
「あっ、これね。彩がちょっとふざけただけなの。やっぱ、七五三にしか見えないよね? なんか、ごめんね。仕事で疲れたところに変なモノ見せちゃって」