堂くん、言わないで。
オレンジの憧憬








『それでね、キスしたときに──』

「ぶっ」

『え、こわっなんの音?』

「ちょ、や、なんでもない……」


スマホを左手に持ちかえながら、口の周りをぬぐった。

飲んでいたペットボトルの水がちょっと、いやだいぶ減った。


いきなり出てきた“キス”という単語に、わたしは目に見えて動揺してしまう。



『ほんとに大丈夫?』

「う、うん。続けて?」

『うん、わかった──』


いまはなゆちゃんと恒例の報告会中。

すでに夕飯は食べ終わっていて、わたしは自室に引き上げていた。


どうやらなゆちゃんは彼氏とうまくやっているらしく、こうして話を聞いていても、いつだってうれしそうで幸せそうだった。




スマホの向こうでなゆちゃんがなにか話しているのは聞こえてるけど、わたしの頭は完全にあの日のキスに囚われていた。



……1回目はちょっとした事故だったはず。


でも2回目は────あきらかに故意だった。


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