練習漬けの毎日を送りながら、私達は確実に一歩一歩卒業へ向かって歩んでいた。

 私は当たり前のように夏休み中もサッカー部の練習を手伝うため学校に来ていた。今年の夏はなかなかの猛暑だったし、慣れない野外生活は大変だったけれどそれなりに充実していた。

 けれど残念なのがどこにも行けなかったことだ。どこかに行くほどの余裕はなかったけど、今年は透くんがいたから夏らしい思い出が欲しかった。

 唯一の夏らしい思い出は遅くまで練習していた時に学校から見えた花火だけかもしれない。私の夏の思い出日記帳は大して埋められないまま最終ページを迎えた。

 あっという間に夏が過ぎて、柳中にも秋が訪れた。校庭のイチョウの木が色付き始めて、やっと涼しくなって来た頃。

 柳中は文化祭の時期になった。

 去年はずっとクラスの出し物に追われていて回った記憶がない。その代わり焼きそば屋をしていたせいで制服に匂いが染み付いた嫌な記憶が蘇る。

 ただ、今年私のクラスは喫茶をすることになったので、少なくとも焼きそばの匂いに悩むことはないだろう。

 柳中はなかなかのマンモス中学でクラスも多い。出し物もたくさんあって楽しみにしていた。しかも、二日間に分けて行われるので回れなくても次の日がある。休憩する時にめぼしい出し物を回ることにした。



 部室に行くなり、透くんが文化祭のことを聞いて来た。なんでも文化祭の準備期間中はグラウンドが使えなくなるため練習ができなくなるそうだ。まあ、だとしても残念がる部員はいないだろうけど。

「透くんのクラスはなんの出し物するの?」

「俺は出ねえよ。興味ねえしな」

「はいはい、そういう性格だったね。じゃあ当日は自由なんだ。いいなあ」

「いいもんか。二日間グラウンドもなんも使えねえだろ。学校に来る意味もねえじゃねーか」

「まあ、安息日ってことで二日間は練習のことは忘れなよ」

「お前はどうするんだ?」

「私はクラスで喫茶やるんだ。初日だけ手伝って二日目は完全フリーの予定。去年見て回れなかったから今年は制覇したいんだよね」

「文化祭の何が面白いんだか」

 透くんは文化祭が楽しみじゃないらしい。部活はともかくとして、彼は人混みが嫌いなんだろう。

 けど、私はガッカリした。本当は少しだけ、透くんと回れたらな、なんて思っていたからだ。この調子ではきっと無理だろうけど。

「そりゃ、ポーカーがなくて透くんは退屈だろうけど……じゃあ別の人誘おうっと」 

 私はわざとらしく透くんに背を向けた。

「なんだよ、俺を誘うつもりだったのか?」

「そうだよ、だって他の人みんな出し物出てて時間合わないし、きっと透くんくらいだよ。二日間フリーの人って。まぁでも、一人で見て回るかなぁ……」

 残念、と深いため息をつく。

「仕方ねぇな、付き合ってやるよ」

「うん、諦めるよ────え? いいの!?」

 私は一世一代の名演技をかます。透くんは優しいから、絶対来てくれるだろうと思っていた。でもきっとこの演技はバレている。彼は呆れていた。

「いいっつってんだろ! 何度も言わせんな!」

「あ、じゃあなんか奢るね。うちの店のコーラでいい?」

「仕方ねえな。安物のコーラで我慢してやるか」

「仕方ないね、透くんにだけ三割増で提供するね。お買い上げありがとう」

「冗談だ冗談」

「あんまり言ってるとそのうち透くんの部屋の冷蔵庫にある炭酸のボトルが爆発するかもね」

「やめろ。お前の場合マジでやるからな」

 悪態を吐く透くんを人睨みして黙らせた。透くんは嫌々かもしれないけど、私は楽しみだ。普段これだけ楽しいのだから、文化祭はもっと楽しいに決まっている。