学園祭が終わると、三年生はようやく受験に向けて本格的に集中し始めた。

 けれど私はそのために時別勉強したりはしなかった。狙っている高校は射程範囲内で、先生からも問題ないと太鼓判を押されていたからだ。

 でも、透くんはそうではないみたい。志望校は進学校ではないけれど透くんの学力では難しいらしい。部活も引退して、彼は柄になく勉強なんてものをするようになった。


 放課後図書室に通うになった透くんに付き添って、私も勉強する。

 透くんはひたすら過去問を解いて、私も真似するみたいに自分が受ける高校の過去問を解く。

 出題範囲は違えど、高校の問題なんてよほど偏差値が違わない限りそう変わらない。教えてくれと一言言えばいいのに、彼は隣で頭をガリガリかきながら過去問に集中しているけれど、シャーペンの芯は先ほどからこれっぽっちも減っていなかった。

「透くん、今どこやってるの?」

「数学。証明」

「分かる?」

「なんなんだこの問題。俺はナポレオンじゃねえんだぞ」

「数学者はナポレオンじゃなくてピタゴラスだよ。一文字も合ってないじゃない。透くんて情報学系行くんじゃなかったっけ」

「俺がやりたいのはパソコン使う仕事なんだよ。数学なんてお呼びじゃねえ」

 これはどうやらお助けが必要みたいだ。私は横から透くんの問題集を覗いた。そう難しい問題じゃない。解けないのは多分基本が出来ていないからだ。私はなんとか彼にも分かるように簡単に説明した。

「お前賢かったのかよ。てっきり俺と同じぐらいだと思ってたぞ」

「残念でした。私は意外と賢いんです」

「ふん、相棒決裂だな」

「あっそう。じゃあこの問題で永遠に悩んでたら?」

「へーへー、悪かったな。相棒の春香サマ、俺に数学を教えてくれませんかね」

「見返りは?」

「コーラ」

「それはいつももらってるでしょ」

「じゃあなにがいいんだよ」

「クリスマスに何かおごって!」

 私は速攻で答えた。実は前々から思っていた。おごることはどっちだっていいけれど、クリスマスの予定は確保したかった。去年は部のみんなで試合を見に行ったけど今年はなにもない。せっかくのクリスマスにホテルで一人ぼっちなんて嫌だった。

「どっか行きたいのか?」

「そういうわけじゃなけど────あ、じゃあご飯買ってホテルでお祝いしよ! それなら安く済むし、透くんの苦手な人混みも避けられるし」

「……ま、それでいいか。分かった。じゃあケーキでも買ってやるよ。ワンホールじゃねえぞ。ワンカットだ」

「買うなら人形が乗ってる奴ね! サンタとチョコの板が乗ってるの」

「へいへい」

 透くんは再び問題集に集中してしまったけれど、私はすっかり上の空になって自分の分の問題はそっちのけでクリスマスの妄想を始めた。

 本当はどこかに出かけたいところだけど、そんなにお金もない。けど彼とならお金を使わなくても楽しいことが出来るだろう。