まだ涼しさの残る春。私と透くん、ケンジくんは揃って【滑り止め高校】に入学した。

【滑り止め高校】は取り立て目立ったもののない公立高校で、一度見学に訪れた時もなんとも思わなかった。制服はよくある紺のブレザーで、別に可愛いわけじゃない。校則はわりと緩い。どことなく柳中と雰囲気が似ている高校だった。

 私は透くん、ケンジくんとは別のクラスになった。不安はあったけど、クラスの女子と連絡先も交換して、気の合いそうな子も見つけた。

 一番よく話すのは篠崎(しのざき)ゆかりちゃん。彼女はワンレンロングの髪型がよく似合うクールビューティで、見た目はキリッとしていてしっかり者の美人に見えるけど、お茶目で笑顔が多いところがいいなと思って友達になった。今一番気が合うのは彼女だ。

 ゆかりちゃんは元サッカー部のマネージャーで、しかも中学サッカーではかなり強いチームの出身者だった。

 そういうわけで、私は運命に導かれたみたいにゆかりちゃんと一緒にサッカー部のマネージャーになった。今度は、正式に。

 入部の話をすると、透くんもそのつもりだったらしい。彼もすぐに入部届けを出した。そして、それに付随してケンジくんも入部することになった。私はただ、またみんなで一緒にいられることが嬉しかった。



 サッカー部に入部して数週間。ゆかりちゃんの仕事ぶりを見て、私はなんだか自信がなくなった。

 有名なチームのマネージャーだったから仕事ができて当然なのかもしれないが、彼女の仕事の早いことと言ったらない。私が一つ進めている間に五を終わらせるぐらい素早く、丁寧で、効率がいい。彼女の爪の垢でも煎じて飲みたいぐらいだ。

 彼女はちょっと早くに始めたからだと言うが、だとしてもすごい。自分の仕事がお粗末に見えてしまわないか心配になった。

 なにせ柳中サッカー部は可もなく不可もない実力で、別に優勝を目指して部活しているわけじゃなかった。全員サッカーが好きだったけれど、趣味か仕事か選べと言われて趣味を選ぶような人達ばかりだったのだ。

 そんなゆるーい中でやってきたエセマネージャーも、当然可もなく不可もない実力だ。そういうわけで私は誰よりもしごかれることになった。

「春香ちゃん、そんなに無理して持たなくてもいいよ。一人じゃないんだし、みんなでやったら……」

「だって、私仕事遅いんだもん。これぐらいやらないとゆかりちゃんに追いつけないよ」

 私は荷物の入った箱を一気に二つ持つ。サッカー部の仕事はこれが初めてじゃないのに慣れないなんて変だ。それもこれも、私が腰掛け部員みたいな適当なポジションにいたせいだろう。もっとちゃんと真面目にやっておけば敏腕マネージャーになれたのに。

「やめてよ。私まるでお局さんみたいじゃない」

「新入部員でそれだけ働いてたら十分重鎮だよ」

「しっ、先輩に聞こえないように言って」

 ゆかりちゃんはウィスパーボイスで私に耳打ちした。

 サッカー部にはマネージャーの先輩が二人いた。二人ともとても優しい先輩だけど、これからうまく付き合っていくためには控えめに、大人しく、そして従順にサポートするが吉だ。

 特にゆかりちゃんはデキる女だからそう思うのも分かる。ざっくばらんで適当な私にはない悩みだ。

【滑り止め高校】のサッカー部は強いわけじゃないけど柳中の時と違って真面目に優勝を目指していた。だからもちろん、マネージャーだけじゃなくて透くんとケンジくんの練習姿勢も変わった。

 あの自由奔放な透くんがまじめに先輩の言うことを聞いているなんてなんだか新鮮だけど、彼も運動部の厳しい上下関係の前ではどうしようもなかったみたいだ。