あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「ちゃんと許可を取っただろ?『味見してもいいか』って」

「え、」

「そしたら静さんが『はい』って言ったじゃないか」

「わたし、そんなこと言って―――」

いや待てよ―――。キスの直前に何か訊かれて『あ、はい』と口にした。
でもそれは、『何?』と訊くための前置きのようなもの。『YES』という意味じゃない。

「そんな変な味見、許可した覚えはありません」

「ええーっ」

またしても『ええーっ』とか言いやがったよ、この御曹司は。

「そんなこどもみたいなこと言っても、ダメなものはダメ。過度な接触は規定違反です」

「そんなぁ……せっかく克服の糸口が見えた気がしたのになぁ」

「えっ、うそ!ほんとに!?」

「本当。僕の我がままに付き合ってくれてる静さんに、嘘なんか吐かないって」

「え、じゃあ、どうしたらいい?どうやったら克服出来そうなの!?」

さっきとは反対に、わたしがアキの方に身を乗り出す。
難易度が上がったと思っていた『ビール克服』に、ひと筋の光が差したと見えたら飛びつかないわけはない。

「―――静さんなら大丈夫みたいなんだ」

「は―――?」

「前にもちょっと言ったと思うけど、静さん越しのビールなら美味しく感じるみたいなんだ」

「わたし越し?……それって………」

「うん、静さんについたビール。それなら苦くない」

「っ、」

驚きのあまり言葉を失うわたし。それを気にすることもなく、アキは更に驚くようなことを口にする。

「試しに静さんの口から飲んでみたいな―――いい?」

血統書付きドラネコの両目が光っているように見えた。




【Next►▷Chapter6】
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