あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter6*ご褒美は、かぼちゃの馬車で。
[1]


しっとりと重ね合わせた唇を少しだけ開き、口に含んでいる液体を向こう側に流す。
温くなったり炭酸が消えてしまったら美味さ半減。だから、本当は一気に流し込みたいところを、こぼしたり()せたりしないよう、我慢しながら少しずつ。

椅子に座るアキの横に立つわたしは、彼の肩に両手をついて自分の口から彼の口へと“ビール”の橋渡し中。

そう、口移しだ。


ようやく口の中のものを全部相手に渡し終えたとホッとして、すぐに離れようとしたのに、首の後ろに添えられていた手にそれを阻まれた。

「んっ……」

ぬるりと入ってきた舌が、咥内に残る雫を惜しむように舐めていく。

「んんんっ!」

口を塞がれたまま言葉にならない抗議の声を上げるが、相手は知らんぷり。そのままわたしの咥内を隅々まで丹念に拭き取った。


「―――もうっ!」

自由になった途端文句を言ったわたしのことなんてそっちのけで、アキは「う~ん、前飲んだ時よりいいかも……」とあごに手を当て真面目な顔で呟いている。

真剣そのもので考え込む姿にみるみる毒気を抜かれて、わたしは「はぁ~」と溜め息をついた。

前より苦手じゃなくなってきたなら、なにより。じゃないと、わたしの苦労が浮かばれない。

こっちは色々な葛藤を堪えつつ、彼の『ビール克服』に協力しているというのに―――。

そんなわたしの苦悩すら露知らぬアキは、わたしを見上げながら「静さんのおかげだ」と優雅な笑顔を浮かべた。


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