あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter7*サンドリヨンは戻れない
[1]
一杯のビールとカクテルをそれぞれ飲んだあと、展望ラウンジを出たわたしたちは、エレベーターでロビー階に。
わたしは、自分のバカげた考えが妄想に終わったことにホッと胸を撫でおろしたけれど、なぜかそこに少しだけ苦いものが混じっていた。
それはまるで、水の入ったグラスに落とされた色付きリキュール。
どんどんグラスの中を侵食して、水を水でなくしてしまう。口にしたが最後、「ノンアルコールです」とは言えなくなる。
(早く帰らなきゃ……)
これ以上彼と一緒にいてはいけない。
早くこの“非日常”から抜け出して、“本来の自分”を取り戻さないと。
わたしは、エントランスホールの絨毯を見つめながら、そればかりを考えていた。
「送るよ」
急にかけられた声に、ハッと顔を向ける。すると隣に立つアキがスマホを手にわたしを見ていた。
「矢野さんに連絡するから少し待ってもらえる?」
『矢野さん』というのが、行きに送って来てくれた運転手さんなのだとすぐに分かって、わたしは慌てて彼を止めた。
「大丈夫、電車で帰るから」
幸い時間もまだ九時半すぎ。ここは駅まで徒歩数分の場所だし、電車も余裕である。
関西に出張で来ている彼は、きっと大阪中心地のホテルに滞在しているのだということは想像に難くない。
運転手さんを呼び出すとしても、送ってもらうのは彼だけで十分。今は一刻でも早くひとりになりたいのだ。
「今日はありがとう。ご馳走さまでした」
サラリと言って出口に足を向けたら、「待って」と腕を掴まれた。
一杯のビールとカクテルをそれぞれ飲んだあと、展望ラウンジを出たわたしたちは、エレベーターでロビー階に。
わたしは、自分のバカげた考えが妄想に終わったことにホッと胸を撫でおろしたけれど、なぜかそこに少しだけ苦いものが混じっていた。
それはまるで、水の入ったグラスに落とされた色付きリキュール。
どんどんグラスの中を侵食して、水を水でなくしてしまう。口にしたが最後、「ノンアルコールです」とは言えなくなる。
(早く帰らなきゃ……)
これ以上彼と一緒にいてはいけない。
早くこの“非日常”から抜け出して、“本来の自分”を取り戻さないと。
わたしは、エントランスホールの絨毯を見つめながら、そればかりを考えていた。
「送るよ」
急にかけられた声に、ハッと顔を向ける。すると隣に立つアキがスマホを手にわたしを見ていた。
「矢野さんに連絡するから少し待ってもらえる?」
『矢野さん』というのが、行きに送って来てくれた運転手さんなのだとすぐに分かって、わたしは慌てて彼を止めた。
「大丈夫、電車で帰るから」
幸い時間もまだ九時半すぎ。ここは駅まで徒歩数分の場所だし、電車も余裕である。
関西に出張で来ている彼は、きっと大阪中心地のホテルに滞在しているのだということは想像に難くない。
運転手さんを呼び出すとしても、送ってもらうのは彼だけで十分。今は一刻でも早くひとりになりたいのだ。
「今日はありがとう。ご馳走さまでした」
サラリと言って出口に足を向けたら、「待って」と腕を掴まれた。