あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Prologue*目覚めのキスはお断り!***
覚めやらぬ眠りのはしっこで、わたしは何やら息苦しさに喘いでいた。
(お、重い………)
鳩尾にかかる圧に思わず「うっ」と漏らした拍子に、それがもぞりと位置を変える。
(ハルったら……また太ったのね………)
閉じたまぶたの裏に浮かんだ姿に苦情を唱える。
近頃ちょっとご立派になりすぎじゃない?そんな豊満なボディすら可愛くてたまらないのだけど。
表面をそっと撫でると、思った通り柔らかくて細い毛が手のひらをくすぐった。
冷え込み厳しい真冬の朝に、寄り添う温もりが心地好い。なんせ“生湯たんぽ”だ。
けどこれ、いかんせん重すぎる。長い間ずっとこの“生湯たんぽ”を乗せていると、息苦しくなって寝てられなくなるのがたまにきず……いや、タマじゃなくてハルだけど。
(もう……みんながそろって甘やかすから……)
彼がこんなにご立派になったのも、実家の家族全員がよってたかって彼に美味しいものあげすぎるせい。
自分だって帰省の時には必ず、“プチ贅沢”なおやつを手土産にするくせに。
そんなことはこの際目をつむっておく。ていうか、まだ目が開けられない。開けたくない。
(もうちょっとだけ……)
春分が間近に迫るこの時期、暖房のついていない部屋は布団の中と外では大違い。だから、ほかほかと温かな場所から出られないのも致し方ないのだ。
羽布団を鼻の上まで引き上げたら、ふわりと良い香りが鼻をくすぐった。
温もりだけじゃなく爽やかな香りにも癒されて、わたしがもう一度眠りの中に戻ろうとした時、鎖骨をペロリと舐められた。