あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter2*ここは竜宮城ではございません。
[1]


連休のあとの仕事って、なんでこんなにしんどいのだろう。

腹の底から「はぁっ」と息をついたわたしは、立ち仕事で重くなった足をペダルに乗せ、職場を後にする。

三日留守にしただけなのに、職場はまるでわたしを置いてきぼりにしてずいぶん先に行ってしまったみたいだった。公休がシフト制だから、二日連休すら珍しいせいもあるかも。今なら浦島太郎の気持ちがよく分かる。

乙姫様から貰った玉手箱を開いてしまった浦島太郎にしみじみと同情しながら、亀並みにのろのろと自転車を漕いだ。


転職と共に引っ越してきてからすぐに買ったこの自転車は、なくてはならない通勤の相棒。

わたしが住んでいる場所は、大阪中心部まで電車で通勤圏内の衛星都市、言わば『ベッドタウン』。そのため、公共交通機関が発達して車が無くても生活できる。むしろ自転車の方が小回りが利いて便利なくらいだ。


「うぅっ、さっむ………」

小さく唸ってから、顔に当たる冷たい風に肩を竦ませる。この冬一番の寒気が日本列島を覆うと耳にしたのは気のせいじゃなかったみたい。

一月下旬の今、午後六時を過ぎると外はもう真っ暗。
北風が冷たくて、手袋をしていても指先が痛くなってくる。耳の先がじんじんと痺れて痛い。手袋同様、マフラーとダウンコートも真冬の自転車通勤には欠かせないアイテムで、本当だったら更にマカロンみたいな耳当て(イヤーマフ)もするのが冬場の定番通勤スタイル。

それなのにこんな日に限って、それを忘れてしまったなんて―――。

今朝彼を家から叩き出した勢いのままに、バタバタと出勤してしたことが悔やまれる。

「あのドラネコめっ」

年下だからって、甘い顔をしていたらすぐに調子に乗りやがる。

いや。――― “ドラネコ”じゃなかった“ドラ王子”かな。

いやいや。それだと働かずに親のすねをかじってばかりいる、怠け王子(むすこ)みたいじゃない。きちんとした(・・・・・・)ご職業をお持ちらしい彼が『怠け者のドラ息子』であろうはずがない。

< 25 / 425 >

この作品をシェア

pagetop