あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
(もうなんでもいいわ……)
考えただけでぐったりする。
職場でバッタリと遭遇したあの後、朝礼で紹介される“彼”を遠目に眺めながら、わたしの頭は大恐慌に陥っていた。
そりゃそうだ。
学生の旅行か何かだと思っていたら、なんとその正体は『当麻聡臣』。
我が社グループのChief Marketing Officer——CMO様だったのだ。
一日を終えた帰宅の途についたわたしがぐったりと疲れているのは、久々の仕事に加えて、そのせいもあった。
四日前に行きつけの串カツ居酒屋で出会った“彼”は、『ビールが苦手だ』とぼやいていた。
お節介なわたしが頼んだビールを結局引き受けてくれた“彼”に、(最近の若い子は優しいわね)なんて年上ぶって感心して。
けれど、顔をしかめながらちびちびとグラスに口をつける姿に、段々と申し訳なくなってしまい気づいたら口を開いていた。
『そんなに苦手なら無理しなくていいのよ?』
『いいえ……結局飲めるようにならないと困るのは自分だから……』
意外と真面目なのかな?
でも、良かれと思ってしたことが、そんなふうに相手を困らせるなんて思い至らず申し訳ない。
お節介の押し売りをしてしまったことを反省したわたしは、『苦手なものから逃げ出さずにエライ!』と彼の背中をバシンと叩いた。
『亀の甲より年の功よ!』なんて偉そうに言って、『ビール嫌いも何とかならないか一緒に考えよう』って意気込んで、必死に頭を捻った。