あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
「はぁ!?なんで私が勝手な、」

「僕はきちんと謝罪をして本当のことを話しました」

「だからもういいって、」

「それなのにあなたは『なかったことにする』という。じゃあ、僕の『ビール嫌い克服』を手伝ってくれると言ったのは嘘だったんですね」

「なっ、」

「『ビールが苦手な年下学生』の面倒は見れても、『ビールが嫌いな年下御曹司』の面倒は見れませんか」

自分で『御曹司』って言っちゃったよっおい!

しかもなんだかやたらと『年下』を強調してくるし。その上、いやに言葉に棘がある。

わたしが反論しようとした時、彼はそれまでの挑むような視線をわたしから逸らし、眉を寄せて静かに長い息をついた。

「いや……、きっとあなたも幻滅しているんでしょうね。ビールが主力のグループ会社上部の人間が、『ビールが飲めない』ということに……」

まるで何かを諦めたようなその口ぶりに、わたしの口から言葉が()いて出た。

「幻滅なんてしてないっ!」

その声に、当麻聡臣の視線がゆっくりとわたしの方へ戻ってくる。わたしはそれを挑むように見つめ返した。

「『ビールが苦手』というくらいで幻滅なんてしない。苦手なもののひとつやふたつくらい誰にだってあるもの。会社のどんな立場だとか、どこの誰とか関係ない。少なくともわたしは、『ビールが飲めない』くらいで誰かのことを幻滅したりなんてしないんだから」

「……本当に?」

「もちろん!」

「静さんにも『ビール嫌いの御曹司』だって、幻滅されたかと思った……」

『静さんに()』と言うことは、彼はこれまでもビールが飲めないことで誰かに何かを言われてきたのだろう。
心中を察すると、同情心が湧いてくる。
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