「そんなことくらいで幻滅するような人と一緒にされたくないわね」

「本当に?」

「もうっ、何度も言わせないっ!女に二言は、あ、り、まっせんっ!」

「ありがとう静さんっ!」

「のわっ、」

わたしの口から驚きの悲鳴が上がる。
それまで綺麗な正座を崩さなかった当麻聡臣が突然立ち上がり、軽々とわたしを抱え上げたのだ。

「なにすんのっ、いきなり!―――おろしてっ」

「静さんがついていたら百人力だ!」

「は?」

「僕の『ビール克服』を手伝ってくれるなんて、静さんはなんて優しい女性なんだ!」

「え、ちょっとまっ、うわっ、」

わたしを抱え上げたままその場でくるくると回り始めた彼に、「やだ、止まって!」と言いながらしがみつく。

標準以下の身長のわたしにとって、百八十センチあろうかという彼の頭よりも視線が高くなるだけで怖いのに、その上クルクル回られたら本当に目が回ってしまう。

やがてゆっくりと動きを止めた彼。小首を傾げつつ、腕に抱えた私を見上げて問う。

「『ビール嫌い克服』―――手伝ってくれるんだろ、静さん」

「―――誰もそんなことは言っ、」

「あの時、あの居酒屋で言ったよね?『ビール嫌いも何とかならないか一緒に考えよう』って」

「うっ、」

「『女に二言はない』――でしょ?」

当麻聡臣は、その垂れ気味のくっきりと大きな二重の瞳を、弧を描くように細め、有無を言わさぬ絶世の顔で微笑んだ。


この血統書付きドラネコ。

どうやらお腹の中は“真っ黒”なもよう。





【Next►▷Chapter3】