あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。

入社して翌年の夏、わたしは社内の人と付き合い始めた。

直属上司ではないけれど、同じフロア他部署の主任――斎藤圭一(さいとうけいいち)。二十三歳のわたしにとって、四つ上の斎藤はとても大人に見えた。

付き合ったきっかけはわたしから。
それまでは、誘うより誘われることの方が多かったわたしにとっては、珍しく自分からのアプローチ。猛アタックといっても過言じゃない。

部署が違うので仕事上の接点はあまりないが、小さな仕事や雑務を手伝いたくて、自分の仕事をなるべく早く終わらせた。
あわよくば駅までの帰り道に一緒になれたらいいと、同じ日に残業してみたりもした。
給湯室で一緒になれば、『ついでですから』と、彼のカップを洗ってあげたり、自分で買ってきたお菓子を『頂き物のお裾分けです』と言って渡したりもした。

とにかく、隙を見つけては好意をアピールしたわたし。
今思い返しても、『アイタタタ』だ。


相手は花形部署のエリート主任。出世頭だったその人を、他の女子が狙ってないわけはなく。

水面下では色々な戦いがあったけれど、それを上手く切り抜けて、最終的には彼をモノにしたのは自分。

―――だと思っていた。あの時までは。


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