あいにくですが、エリート御曹司の蜜愛はお受けいたしかねます。
Chapter1*王子様の耳は、猫の耳?
[1]


「まったく……油断も隙もあったもんじゃないっての……」

ロッカーを開けて着ているものを脱ぎながら、ぶつぶつと文句をたれる。

出勤にはまだずいぶん早いこの時間、更衣室(ここ)にはわたしだけ。
自分しかいないのを良いことに、わたしは遠慮なくロッカーの中にフラストレーションをぶちまけていた。

なんでこんなに早く職場に到着したかって。それは間違いなくあいつのせいだ。

「アキ―――!あのドラネコ!許可なく未婚の女性の(しとね)にもぐりこんだ上に、寝起きを襲うなんて……、痴漢、ヘンタイ、不届きものっ!」

思いつくまま吐いた罵詈雑言が、ロッカーに掛けたダウンコートの中に吸い込まれていく。
穴を掘って王様の悪口をぶち込んだやつ、分かりみ深すぎ!

(あ、でも。王様じゃないだけマシか……)

たかだかドラネコの世話をして三日足らずのわたしと、何年も王様の秘密を黙っていないといけなかった理髪師さんを一緒にするのはいかがなものか。

―――とは思うけれど、最近の若者はどうも“しつけ”がなってない。王様でなくても厄介な相手だという点では、似たようなものだと思う。


よく分からない成り行きで“ドラネコ”を拾ってしまってしまい、あまつさえ三日も我が家に置いてやったのだ。

それなのに、最後の最後で今朝のアレ。
一宿一飯の恩義どころか、三宿三飯の恩を仇で返しやがった。

あのあとすぐ、わたしはあの“ドラネコ”を家から追い出した。
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