年上王子の不器用な恋心
初恋の人が許嫁

「一ノ瀬さん久しぶりだね。俺のこと、覚えてる?」

突然、そんなことを言われ数回瞬きした。
えっと、誰だっけ?
目の前に座っている人をまじまじと見たけど、思い出せない。
黒髪の短髪に明るい雰囲気をまとった人というのは見て取れたけど……。

私は隣に座っている友達の東条亜樹に助けを求めるように視線を向けた。
それに気づいた亜樹は助け舟を出してくれた。

「内藤くんだよね。サッカー部だった。あゆも覚えてるでしょ」

サッカー部の内藤?
亜樹に名前を聞いても全然ピンとこないし、そもそもクラスの男子とほとんど話した記憶がない。
覚えていないということは、それだけ私の中で内藤くんとやらの印象が薄かったんだと思う。
失礼な話だけど、馬鹿正直に覚えていないとは言えなくて。

「う、うん」

「よかった、覚えてもらえていて」

私が頷くと内藤くんとやらは嬉しそうな笑みを浮かべた。

今日は中学三年生の時の同窓会。
卒業式前にお酒が飲めるようになる年齢になったら同窓会を開こうという話をしていた。
そして中学卒業から五年後の今日、『クローバー』という創作料理の店に都合がつくメンバーが集まっていた。

一ノ瀬あゆ、二十歳。
短大を卒業したばかりの社会人だ。

早く帰りたいなと思いながらファジーネーブルのグラスに口をつける。

この同窓会に行く気はなかったけど、亜樹に誘われて渋々来たんだ。
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