年上王子の不器用な恋心
不器用な王子と紡ぐ未来
「帰りたくないな」
私がソファに座ったままボヤけば、千尋くんに「馬鹿言うな」と一蹴された。
さっきまでの甘い雰囲気はどこへやら。
私は家に帰るという現実に引き戻されて、口を尖らせる。
「えー、せっかく千尋くんと想いが通じ合ったのに!」
「それとこれとは話が別だ。このままなし崩しに俺のマンションに泊まってみろ。親父さんから何を言われるか分からない」
「もう少し千尋くんと一緒にいたかったのに」
名残惜しさを滲ませつつ、サンドイッチにかぶりついた。
私は晩ご飯を食べないまま、マンションに連れてこられた。
千尋くんも食べていなかったらしく、コンビニで軽食を買ってきてくれた。
「わがままを言わないでくれ。あゆの両親の信頼をこれ以上失いたくないんだよ。それでなくても、あゆを泣かせて傷つけた分を取り返さないといけないんだから」
困ったように言うと、私の頭をポンポンと撫でた。
「あゆ、身体は辛くないか?」
「う、うん」
本当は身体は怠いし、まだ違和感が残っていたけど、それは千尋くんと結ばれた証だ。
でも、身体を気遣ってくれるのは嬉しいけど、この件に関しては恥ずかしい。
それより、千尋くんはさっきから私に対して甘い気がする。
私を見つめる瞳とか優しげで前までと雰囲気が違う。
「それって、千尋くんが私のことを好きだってことなのかな」
つい思っていたことを口に出してしまい、千尋くんが呆れた顔をした。