年上王子の不器用な恋心
俺の許嫁

あゆを家まで送り届け、自宅のマンションから徒歩で五分足らずの行きつけのバーに寄った。

このバーは友人の山村岳が経営している。
昼はウェブデザイナーをしつつ、夜はバーで酒を提供している。

山村はかなりやり手のデザイナーだ。
バーは趣味でやっていて、客といろんな話をしているとインスピレーションが沸いて仕事に繋がると言っていた。

ここはカウンター席しかなく、落ち着いた雰囲気で静かに飲めるから気に入っている。

「どうしたんだ、ため息なんかついて」

「ため息ついてた?」

「あぁ、何か嫌なことでもあったのか?」

山村に言われ、自分がため息をついていたことに気付く。

「嫌なことはないよ。ただ、」

「ただ?」

「いや、何でもない」

首を振り、注文していたモヒートに口をつけた。

一ノ瀬あゆ、母親が勝手に決めた許嫁。
まだ二十歳のあゆは、俺に対して真っ直ぐに気持ちをぶつけてくる。
それが嬉しくもあり怖くもある。

初めて会ったのはいつだったか……。
母親の友達が小さな女の子と一緒に家に来ていたのは知っていた。
その子はあゆと呼ばれ、無邪気に笑う可愛い子という認識しかなかった。
会っても挨拶する程度で、そこまで関わりはなかった。

俺が中三の時、本屋から帰ってきたら庭から騒がしい声がした。
覗いて見れば、飼っていた犬のリッキーに追いかけ回されるあゆの姿があった。
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