青いチェリーは熟れることを知らない② 〜春が来た!と思ったら夏も来た!!〜
笑いと緊張と垂直飛びと
(……真琴はなんて言ってくれるかな……)
瑞貴の妹である真琴は唯一無二の親友だったが、彼女には自分の想いを伝えていなかった。真琴ならばきっと満面の笑みで背中を押してくれただろうが、フラれて気まずくなることを恐れていたちえりは、瑞貴への想いをたったひとりであたため続けていたのだ。
(会って報告したかったな……って、私ってば何て報告するつもりなんだべっ!?)
結婚が決まったわけでもなく、ましてや付き合うという話が出たわけでもない。
サァーッと蒼白になりながら一気に現実へと引き戻されたちえりは、少し離れたバスルームのドアが開く音を聞きつけた。
「あっ!! センパイに着替えとバスタオル!!」
ずっと好きだったと言ってくれた瑞貴に"着替えも用意してくれない女だったなんて……"と幻滅されたくないちえりは、かつてないスピードでリビングを出て瑞貴の下着やパジャマ、バスタオルやタオルを手に急いでノックする。
――コンコンッ
「センパイごめんなさい! 着替え持って来ましたっっ!」
『……俺こそごめんな、何も持たずに風呂入っちまった。ありがとう。そこ置いてて』
聞こえた瑞貴の声に先ほどのような動揺はみられず、いつもの冷静で優しい瑞貴だった。それはそれで安心したような……すこし残念な気もするちえりだった。
「は、はいっ……!」
――ガチャ……
(……ん? でもさっきバスルームのドアが開いた音が聞こえたような……?)
頭の片隅でそんな小さな疑問が浮かんだが、ちえりの手はドアノブに掛けられ、一連の動作は止まることなくちえりの視界を開いていく。
「ぎゃっっ!! セセセセンパイッッ!!」
いわゆる細マッチョと言うのだろうか。
いつもはシャツに隠れている美しく白い瑞貴の肌。瑞貴が特別なトレーニングをしているわけではないはずだが、彼の胸板は頬擦りしたくなるような……もはや芸術的な筋肉が適度についており、しなやかな肢体は照明に照らされて引き締まったそれらは浮き彫りになって飛び込んできた。
(……ま、眩しいっっ!! なんだってばこんなに美しいんだべっっ!!)
天井を突き破りそうなほど飛び上がったちえりだったが、その目はしっかりと一糸まとわぬ美しい瑞貴の身体を捉えて離さない。
「チェリー……今、アスリート並みに飛んだな?」
水の滴る白魚のような手を口元にあて、必死に笑いを堪えている瑞貴にちえりは真っ赤になりながらも釣られて笑みがこぼれる。
「垂直飛びなんて平均以下だったんですけど、いまの記録ならオリンピック出れるべか……!!」
「ぶはっ! オリンピックに垂直飛びとかないだろ!?」
「ない……、かも~!」
恥ずかしさのあまり視線を逸らすと、手にした着替えたちを置く場所が見えなくなってしまったちえりは、再び視線を戻すこともできずに固まってしまった。
(……やばいっ……笑いに乗じて渡すべきだったーーーっ!!)
「…………」
距離を詰める気配がする。
バスルームから流れてきた湯気が、ひとの動きに合わせて視界の端で揺れるのが見えた。
「……チェリー、こっち向いて?」
ビクッと視線を伸ばしたちえりの口からは、再び予期せぬ言葉が飛び出してくる。
「お……」
「……お?」
「お……、お酒は二十歳(はたち)からぁあああっ!!」
グイーッと着替えを瑞貴の胸元へ押し付け、バターンとドアを閉めたちえりの足音は疾風のように遠ざかっていった――。
瑞貴の妹である真琴は唯一無二の親友だったが、彼女には自分の想いを伝えていなかった。真琴ならばきっと満面の笑みで背中を押してくれただろうが、フラれて気まずくなることを恐れていたちえりは、瑞貴への想いをたったひとりであたため続けていたのだ。
(会って報告したかったな……って、私ってば何て報告するつもりなんだべっ!?)
結婚が決まったわけでもなく、ましてや付き合うという話が出たわけでもない。
サァーッと蒼白になりながら一気に現実へと引き戻されたちえりは、少し離れたバスルームのドアが開く音を聞きつけた。
「あっ!! センパイに着替えとバスタオル!!」
ずっと好きだったと言ってくれた瑞貴に"着替えも用意してくれない女だったなんて……"と幻滅されたくないちえりは、かつてないスピードでリビングを出て瑞貴の下着やパジャマ、バスタオルやタオルを手に急いでノックする。
――コンコンッ
「センパイごめんなさい! 着替え持って来ましたっっ!」
『……俺こそごめんな、何も持たずに風呂入っちまった。ありがとう。そこ置いてて』
聞こえた瑞貴の声に先ほどのような動揺はみられず、いつもの冷静で優しい瑞貴だった。それはそれで安心したような……すこし残念な気もするちえりだった。
「は、はいっ……!」
――ガチャ……
(……ん? でもさっきバスルームのドアが開いた音が聞こえたような……?)
頭の片隅でそんな小さな疑問が浮かんだが、ちえりの手はドアノブに掛けられ、一連の動作は止まることなくちえりの視界を開いていく。
「ぎゃっっ!! セセセセンパイッッ!!」
いわゆる細マッチョと言うのだろうか。
いつもはシャツに隠れている美しく白い瑞貴の肌。瑞貴が特別なトレーニングをしているわけではないはずだが、彼の胸板は頬擦りしたくなるような……もはや芸術的な筋肉が適度についており、しなやかな肢体は照明に照らされて引き締まったそれらは浮き彫りになって飛び込んできた。
(……ま、眩しいっっ!! なんだってばこんなに美しいんだべっっ!!)
天井を突き破りそうなほど飛び上がったちえりだったが、その目はしっかりと一糸まとわぬ美しい瑞貴の身体を捉えて離さない。
「チェリー……今、アスリート並みに飛んだな?」
水の滴る白魚のような手を口元にあて、必死に笑いを堪えている瑞貴にちえりは真っ赤になりながらも釣られて笑みがこぼれる。
「垂直飛びなんて平均以下だったんですけど、いまの記録ならオリンピック出れるべか……!!」
「ぶはっ! オリンピックに垂直飛びとかないだろ!?」
「ない……、かも~!」
恥ずかしさのあまり視線を逸らすと、手にした着替えたちを置く場所が見えなくなってしまったちえりは、再び視線を戻すこともできずに固まってしまった。
(……やばいっ……笑いに乗じて渡すべきだったーーーっ!!)
「…………」
距離を詰める気配がする。
バスルームから流れてきた湯気が、ひとの動きに合わせて視界の端で揺れるのが見えた。
「……チェリー、こっち向いて?」
ビクッと視線を伸ばしたちえりの口からは、再び予期せぬ言葉が飛び出してくる。
「お……」
「……お?」
「お……、お酒は二十歳(はたち)からぁあああっ!!」
グイーッと着替えを瑞貴の胸元へ押し付け、バターンとドアを閉めたちえりの足音は疾風のように遠ざかっていった――。