13番目の恋人
第20話

頼人

 ──敵を騙すには、まずは味方からと言うだろう?──
 
 俺は俊彦に“彼女と付き合うことになった”と話すつもりだった。一時であっても、そうしたいと思った事を、伝えるつもりだった。
「小百合は自分の感情や欲求を口にするタイプじゃない。いつも言いたいことも言えずにいる。だから、今回は叶えてやりたいとみんなが思ったんだ」
 俊彦はそう言って細くため息を吐くと

「俺は、小百合が可愛い」
 心から、そう言った。
 
 ……こうなれば、俺も叩き切られてもかまわない。すうっと息を吸う。そして、俺も心から、言う。
 
「彼女を、俺にくれないか?」

 いつだったか、俊彦に渡されたリスト。12人に俺は入っていなかったけれど、俊彦の顔を真っ直ぐに見据えた。
 
「俺だけは絶対に駄目だとお前が判断したのは知っている。だけど、彼女を俺にくれないか?」

 俊彦はただポカンとして

「は、え、お、い」口から意味のない音だけを出すと、俺を指差す。
 
「彼女のことが、好きなんだ。その、勿論、女性として」
 
 俊彦は顎に手を添えて部屋をぐるぐるまわりだし、それから
「ええ、嫌だ」と、子供みたいなセリフを情けなく気の抜けた口調で言った。

「分かってる。お前や彼女の家族が出す条件に俺が当てはまらないことは。だけど、出来うる限りの努力はするつもりだし、それに……」
 
 問題は、俺の両親が彼女と結婚するとなれば……前回の事もある。相手選びには、以前にもまして厳しくなっている。俊彦と関係のあった女性など駄目だと反対されるだろうと、この時まで思っていた。
 
 だが、彼女の家柄の話を聞いて、違う、そうじゃない。と悟った。
 俺が、彼女に相応しくないのだと。それなら、まだ……チャンスはあるのではないかと。
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