13番目の恋人
第8話

頼人

その日から、何となく彼女の動向が気にかかかるようになった。
 ……大丈夫なのだろうか、と心配するような感情。
 色白ではあるが、顔色が悪いわけでもない。落ち込んでいるようにも見えない。まさか、オフィスで泣き出すような事はないだろうが、つい、そんな事を気にしては彼女へと目をやった。
 
彼女は、元々浮わついたよく話すタイプではなかったように思う。定かではないが、そんなに誰かと話している姿は見なかったと思う。
 隣の席の久宝さんには笑顔を見せていた。この前、俺といる時にも一瞬見せた自然な笑顔は、まだ少女の面影が残るようなあどけないものだった。
 
この数日で彼女の印象は随分と変わった。なんというか、幼い。ちょっとしたことなのだけれど、パッと見は堅苦しい表情も手伝ってか年より大人びて見える。……色気、という意味でもそうだ。だけど、少し入り込めば妙に幼いと感じるものがあった。
 
『俺は小百合が可愛い』
俊彦もそう言っていた。彼の前だと、より幼いのかもしれない。それなら尚更、なぜ手を出したのだと言いたくなった。思い出しては胸が痛む。

これ以上、彼女が傷つかなければいいのに。
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