君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~

Side Kimihiro




 頭蓋骨に一円玉ほどの穴を開けて行う鍵穴手術は、覗いた顕微鏡の中の狭い視野に全神経を集中して挑む。

 顔面神経が出てくる場所に小脳動脈が当たり、血管の拍動が顔面神経を刺激して左顔面のけいれんを起こしている症例のオペだ。


「バイポーラ、極細のほう使う。出てる?」

「はい、八十ミリのほうが」

「オッケー、ありがとう」


 顕微鏡の中の術野を覗きながら器具出しのスタッフとやり取りを交わす。

 圧迫している血管を神経より慎重に遊離し、その血管をテフロンテープでつり上げていく。

 神経に血管が当たらないように移動することで、けいれんが起こらないようにするのだ。

 約三時間ほどのオペを終えて医局に上がった時刻は夕方六時を回っていた。

 自分の席に戻ると同時、置いてある私物のスマートフォンを手に取る。

 数か月前まではスマートフォンを気にする素振りなんて見せなかった俺が、最近はよく眺めていると医局でも冷やかし込みでツッコまれる。

 耳に入ってきた話を聞けば、結婚してから丸くなったなどとも陰で言われているらしい。

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