君との子がほしい~エリート脳外科医とお見合い溺愛結婚~

Side Kimihiro




 日中の強い日差しがアスファルトに熱を蓄え、陽が沈んでも暑さはなかなか和らがない。

 八月上旬。

 今日は脳神経外科学会の学術総会が国際会議場であり、シンポジウムを見に外出していた。

 医大生時代からお世話になっている恩師の落合先生も顔を出すと聞いていて、久しぶりに会えるのを楽しみにしていた。

 落合先生との出会いはもう十年以上前。

 脳外科医を目指してすぐの頃、業界でも〝神の手〟だと名を馳せる落合先生に出会った。

 自らの技術を惜しみなく後輩たちに受け継ごうという姿勢は清々しく、医療人として初めて尊敬し、ずっと付いていきたいと思える人だった。

 幼くして両親を亡くし、ひとりで生きてきた俺に対し、落合先生は俺を我が子同然に接してきてくれた。

 仕事以外のことでも何か困ったことがあれば頼りなさいと言ってくれたことは、今でも心にしっかりと残っている。

 天涯孤独だった人生に、落合先生の存在は大きかった。

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