君がくれた花言葉
優月の病気と夕日
翌日、目を覚ますと時刻は早朝の4時を指していた。

「昨日は早く寝すぎたかな。微妙な時間に起きちゃったな。」

「グスッグスッ……」

ん?なんだ?誰か泣いてるのか?でもこの部屋には僕しか…いや、昨日優月がこの部屋に入室してきたか。大丈夫だろうか。

「…優月?大丈夫?」

「…!内豊くん起きてたの?随分と早起きだね。もしかして起こしちゃったかな?」

「いや、たまたま目が覚めただけだよ。それよりも何かあった?どこか痛む?」

「ううん。大丈夫。どこも痛くないよ。ただ色々思い出しちゃって。」

「…色々?」

「うん。実は私今お父さんと2人暮らしでね、お母さんは離婚してからすぐに他の男の人と家出たっきりで帰ってこないし連絡もないしで時々思い出してこんなふうに泣いちゃうの。」

「そんなことがあったのか。」

「うん。ごめんね。私の事気にしないで。」

「謝らなくていいよ。僕も一緒だよ。」

「内豊くんも…?」

「うん。状況は違うんだけどね。僕、学校でいじめられてたんだ。でも唯一僕と話してくれるやつがいて僕はずっと親友だと思ってた。でも、ある時僕をいじめてたヤツらがその親友に僕と仲良くしてたらお前まで同じ目に合わせるぞって脅したらしくて。それからは親友だと思ってたやつもいじめの加害者になってきたんだ。両親も喧嘩ばかりで、離婚の話も出てて。それで何もかも嫌になってさ、僕自殺しようと思ったんだ。でも上手くいかなかったらしく、今ここにいるって訳。」

「そうだったのね。学校行ってないからそんなことも私知らなかったのね。」

「そうだ。優月はなんで学校来ないの?なんで入院してるの?」

「私は生まれつきの心臓病でね、体育はもちろん、移動教室に遅れそうになって走るのさえだめなの。それだったら行かない方がいいかなって。それでこの前普通に歩いてただけなんだけど、急に心臓が痛くなって、救急車で運ばれて入院するってなって、今ここにいるって感じよ。」

「てことは走るのはもちろん歩くのさえ厳しいって感じなのか?」

「まぁ、はっきりいえばそうなるわ。」

「そっか…。」

「それにね、あんまり親しくない人に言うのもあれなんだけど、余命も1年半ほどらしいの。」

「…えっ。」
その時僕は、生きたいって思ってるのに生きれない優月を見て、生きれるのに死のうとした自分が恥ずかしくてたまらなかった。

「みーんなそんな反応するわ。でももう諦めてる。だってどんなに悔やんだって結果は変わらない。いずれ人は死ぬ。それが私の場合他の人より少し早いだけ。ただそれだけの事でしょ?」

言ってることは正しい。でも優月だって辛いはずだ。それなのに死を肯定している。でもここで何か言ったところで何も変わりはしないだろう。言いたいことをグッと抑えた。

「そんな顔しないでよ〜!大丈夫だから!」

「あ、うん。ごめん。」

いつの間にか外は明るくなり始めていた。僕の病室は8階なので外の景色がよく見える。

「内豊くん見て〜!朝日が綺麗ね。」

「うん。そうだね。」

あの日優月と見た朝日を、あの時の気持ちを、そして何よりも純粋で綺麗な瞳をしていた優月を忘れはしない。
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