どうしてこうなった……。
 いつも通り、疲れ果てて仕事から帰ってくる途中、いつもなら下を向いてばかりいるが今日は違う。

「それでは、また明日よろしくお願いいたします。神薙(かんなぎ) 紗香(さやか)先輩」

 可愛らしい部下との分かれ道、軽く手を振って挨拶を済ませると、コンビニによりお酒をいつもより多めに買い込む。
 
「なんせ! 新居よ新居! くぅ、今まで頑張って働いてきた自分へのご褒美」

 今年で二十九歳になり、恋人ゼロ、仕事一筋な生活を送ってきてしまい。
 気が付くと、会社でそれなりのポジションになっていて、特に浮いた話は一切ない。
 いや、無意識に避けてきていたのかもしれない。
 
「まだ引きずっているってバカなの?」

 コンビニのお会計を済ませている間に、ボソッと独り言を呟いてしまう。
 だけど、今までのアパートと違って今回は自分で選んで買った真新しいマンション、忙しくてまだ何も運び入れていないけど、何も無い部屋でお酒を飲みたいと思い一足先に家に行くことにした。

「あれ?」

 ガチャッと、入ってみるとなぜか電気がついており、昼間に業者さんか誰かが来て、消し忘れたのかな? そう思い、部屋の扉をあけると……。
 私の目の前には、なぜか腰にタオルを巻いて、紙パックのコーヒー牛乳を飲んでいる人がいる。
 それは、銭湯に行けば珍しくもないが、状況が違いここは、私の部屋なのだ!

「へ?」
 
 相手が私のことに気が付き、驚いていると、はらりとタオルが取れていく。
 立派なモノをお持ちのようで、でわなく!

「ふ、不法侵入者ぁぁ!!」

 私が叫びそうになると、慌ててこちらに向かってくる。
 ガバっと口を塞がれてソファーに押し倒されてしまう。
 濡れた髪の毛から、柑橘系の爽やかな香りがした。

「ち、違う! これは、何かの間違いで、って言うより、不法侵入はそちらさんなのですが⁉」

 ダメだ、頭が混乱してしまい。
 なぜか冷静に物事が見えてしまう、今も彼のほどよく筋肉質な腹筋に目がいってしまい、急いで視線を上げると、そこにはいつも見ている顔があった。

「こ、声をださない?」

 一応頷いておく。
 ハッキリ言って怖い、ものすごく怖い。
 でも、さっきここは彼の部屋だと言っていたのがどうしても気になり、とりあえずバッグに入っている痴漢撃退用のスプレーは取り出さなくても済みそうである。
 
「よかった……じゃぁ外すよ」

 そういって、ゆっくり手を外すと、彼はもう一度タオルを腰に巻いて大きなため息をついた。

「ため息をつきたいのは私よ! なんで、あなたがここにいるの?」

「なんでって、ここは俺の家だよ!!」

 ダメだ、意味がわからない。
 私が頑張って仕事をして貯めたお金で購入した、新築のマンションになぜ、取引先のアルバイトくんがいるのだろうか?
 いや、私が部屋を間違ったのかもしれないので、念のため外にでて確認してみるが、鍵と渡された書類を照らし合わせても完全に、ここは私の家で間違いがない。

「やっぱり! ここは私の家で――? どこに行ったのよ⁉」

 今まで全裸でいた彼は、どこにいったのか、見当たらない。
 キョロキョロしていると、隣の寝室から出てきた。

「と、とりあえず落ち着いて」

 慌てていたのか、濡れた髪のまま着替えを済ませ、ソファーに座るように促してきた。
 私も一度状況を確認するために座ると、お互いため息がでてしまう。

「え、えっと」
 
 とりあえず鍵を出すと、彼も出してくる。
 一度お互い外に出て、部屋をロックし開けると両方反応してしまう。

「これって?」
「いや、まさかぁ」

 部屋に戻ると、彼は電話を管理会社の担当に電話をかけてくれている。

「……え? ちょっと、だってここは俺の――」

 所々聞こえないが、雰囲気的に非常にマズイ気がしてならない。
 通話が終わり、こちらに戻ってくると少し癖っ毛のある髪の毛をもしゃもしゃと掻きながら現れる。

「どうだったの?」

「ん? いや、ちょっと意味わからないんですが、どうやらこの部屋、俺と神薙さんが同時に契約しているようなんですよね、で、契約の書類の手続きの段階で何か不備があって、一緒になったようです」

 ごめんなさい、まったく意味がわからないの、なんでそうなるの⁉

「え? つまり、この部屋のオーナーって私たちってこと?」

 頷いてくる彼、つまり、なぜかダブって買ってしまったといことなのだろうか? それとも、実は私の部屋は別の階ですよってことはない?
 でも、この部屋は私は直に来て気に入って購入した場所で、そこは違っていない。

「確認したら、今、部屋は全部埋まっていて空きができるまでは無理って言われた。購入した金額の半額を返すからお互い、部屋が空くまで住んでいてくれないかって言われたよ」

「い、嫌にきまっているでしょ! 私が契約したのよ? せ、せっかくの新居なのに……。それに、あなた、どうやってこのマンション契約できたの? そんな収入の良いアルバイトなの?」

 モジモジと何も答えない、周りをよく見てみると、家具が既に運ばれており、寸法などをみるとこの部屋に合わせて購入したのだろう。
 ちらっと時計を確認してみると、既に遅い時間になっていた。

「はぁ、もう、疲れた。とりあえず今日は私がまだ契約してあるアパートに戻るから」
 
 明日、朝一番で管理会社に電話してやろうと思い、立ち上がると、なぜか手を握られる。

「え?」

「え、えっと、そのもうこんな時間だから……外は危ないし、俺がソファーで寝るから寝室使っていいよ」

 ん? 顔を真っ赤にさせながら、何か言ってる。
 でも、よく考えてみると、この部屋って私の部屋でもあるのよね? もう一度時計を確認してみると、今から帰ってお風呂に入ることを考えると、かなり億劫だ。

「わかった。それじゃぁ先にお風呂入ろうかしら」