風が冷たい。
 この皮膚のような表面的な冷たさよりも、体の芯から冷える感じが凄く辛い季節になってしまった。
 周りは、色とりどりのイルミネーションに彩られ街のあちらこちらでは素敵なクリスマスの音楽が優しく流れている。

「ふぅ、今年も無事にこの季節になったわね」
 
 無事という謎な単語を使ってみたが、私にとってこの季節は今まで憂鬱というよりも煩わしい季節に分類されていた。
 だって! 考えてみると師走と言われるだけあって、忙しいうえに虚無感に襲われる瞬間も多々あった。
 それに寒い、寒すぎる……こう吸い込んだ息に肺がチリっと痛むような感じがする。

「だけど……」

 この空だけは何度見ても綺麗だとしか表現できない。
 秋の空から変わり今はすっかり冬の夜空になっている。
 このどこまでも透明な空気はこの季節ならではのモノであり、唯一好ましく思っていた部分でもあった。

「どうかしたんですか?」

「ん? いや、今年も騒がしい街ねっておもって」

「そうですか? 僕は好きですねこの季節」

 すっと、私の手を握ってくれる人が隣に立っている。
 そう、今年は違って私を温めてくれる人がいた。
 それも、握ってくれた手はもちろん熱が伝わり心地よいが、その余熱が心まで届いて不思議と体全体も温めてくれているような気もした。

「私も別に嫌いじゃないんだけどね……」

「それじゃあ、今年以降(・・)も楽しめるように頑張りますね」

 その何気ない一言だけで、ぽうっと胸が弾む感覚がする。
 付き合って、まだ一週間のような感じが時々感じられて、私って意外とピュアなのかも? なんて思ってしまうこともあった。

「そうね! せっかくだから楽しみましょう、まずは……!」

 握ってくれた手に力をこめ、私が引っ張って歩き出していく。
 今は、樹くんの仕事も一時的に落ち着いてこうやって私の仕事が遅くなるときは迎えに来てくれることもあった。
 なんで? って聞いても「なんとなく、家にいても寂しいので」なんて言われると、恥ずかしい気持ちもあるが断れなかった。

「ちょッ――! 紗香さん待ってくださいよ」

 ぎゅっと、地面を踏み込むとアスファルトがさらっと音をたててような気がする。
 すっかり冷えた街と空気が世の中を包み込んでも、温かく過ごせているのは彼のおかげだ。

「それで、紗香さんはクリスマスの予定は変わりないですか?」

 コンビニでおでんを購入し、マンションまでの道すがら尋ねられる。

「そうね、特に変化はないかな? たぶんこのままいくと、休みかも」

 それを聞いて嬉しそうな表情にある。
 私だって、恋人とのクリスマスなんて記憶の彼方に置き去りにしてきているので、正直かなり楽しみだ。
 緊張すらしている……三十路が何を言っているのかとツッコまれそうだが、仕方ないだろう。
 
「それじゃぁ、当日のスケジュールは僕に任せてくださいね」

「うん、任せた! でも、これだけは約束して」

「?」

 不思議そうな顔になる彼に私は一歩だけ近づいて、こっそりとお願いをする。

「普段通りで良いから、高級なお店とか素敵かもしれないけれど、私たち二人の初めてのクリスマスだもん、だから黙っていても特別になるから家でタンドリーチキンを食べて、軽くお酒を飲んでテレビを観るみたいな感じで良いからね」

 相手が任せてと言ってきた直後にこんなことを言うのはどうかと思ったが、張り切って失敗するよりもゆっくりと過ごしたいと思ってしまう。
 なぜタンドリーチキンかというのは、昼のまとめサイトで紹介されていたので食べたくなったとは言えない。

 こちらの言葉を聞いて、少し悩むそぶりを見せる樹くん、最後は軽くため息をついてこういった。

「わかりました。任せてください」

 軽く微笑むと、目の前には私たちの家が待っていた。
 ぶわっとドアが開くと温かい空気が外に向かって逃げていく。
 セキュリティーを解除してエレベーターに乗ると、一瞬のふわっとした感覚にも随分となれていまではなにも感じない。
 
「さて、帰りますか」

「そうですね、せっかくのおでんが冷めてしまいますね」

「でも、冷めたほうが味がしみ込むって言わない?」

「でも、僕は熱々のおでんが食べたいです!」

 コンビニの袋に入った二つの容器ががさりと音をたてた。
 部屋のドアを開けると、暗く冷えた空気が出向かてくれるが、パチッとスイッチを押すとパパっと明るくなる。
 手慣れた感じで暖房類も起動させ、お風呂のお湯も入れていく。

「さて、それじゃぁ食べますか!」

「いや、着替えないんですか?」

 苦笑されてしまう、だってお腹が減ってしまってずっとこの香りに抗うのは無理だった。
 だけど、面とむかって言われてしまったのでことりとテーブルに置いて部屋で着替えてからリビングに戻って席に座ると、樹くんは簡単なおかずも用意してくれていた。

「凄いじゃない、この短時間で作れるなんて」

「そうでしょ? 冷凍食品っていう文明の利器を使ってですね」

 お互い笑って箸をもって「いただきます」と言ってから食べ始める。
 このお酒を飲まない生活にも馴染んできて、今ではなんとも思わない。
 前ならおでんにはビール! なんて確実に思っていたけれど、落ち着いて会話を楽しみながら食事をするのも悪くないと思う。